中国・北京で捉えられた一台のカメラが、金正恩総書記が座っていた椅子を何者かが布で念入りに拭くという、一見すると奇妙な行動を映し出しました。この「謎の行動」の裏には、北朝鮮最高指導者の厳重な個人情報管理と、その背景にある体制維持への強い意識が隠されています。世界の注目を集めたこの異常な警護体制は、一体何を意味するのでしょうか。
華々しい「金氏流外交」の裏で
9月3日に北京で行われた「抗日戦争勝利80周年式典」に出席した金総書記の動向は、北朝鮮の労働新聞によって大々的に報じられました。翌4日付の紙面では、6ページ中3ページ、37枚もの写真を用いて「金氏流外交」の様子を紹介。20カ国以上の首脳らが連れ立って歩く中心に金総書記がいる姿は、まるで世界のリーダーであるかのように誇張され、プロパガンダに利用されました。同日行われたロシアのプーチン大統領との首脳会談についても、車中で談笑する二人の様子が報じられ、両国の蜜月関係が強くアピールされました。しかし、この華々しい外交の舞台裏で、北朝鮮側がとったある行動が世界中のメディアの注目を集めることになります。
金正恩氏が座った椅子を念入りに拭き取る随行員。生体情報流出を防ぐ徹底した警護の様子。
拭き取られる「痕跡」:随行員の異常な行動
プーチン大統領との首脳会談終了後、ロシア側メディアが撮影した映像には、一人の人物が金総書記が使用した椅子の肘掛け部分を念入りに拭き取る様子が捉えられていました。単なる汚れ落としのようにも見えましたが、この人物は肘掛けだけでなく、金総書記の体が触れていた背もたれなど、ほとんどの部分を拭き取っていきます。椅子には目立った汚れは見当たりませんでしたが、さらにサイドテーブルまでもが拭かれました。この人物の胸には、金総書記の祖父や父の肖像画とみられるバッジが輝いており、北朝鮮の随行員であることが示唆されました。また、金総書記とプーチン大統領が口をつけたとみられるコップも、同様のバッジをつけた北朝鮮の随行員によって回収されていました。これらの行動は、金総書記のあらゆる「痕跡」を消し去ろうと躍起になっているかのように見えます。
「生体情報」防衛の徹底:専門家が見る背景
なぜ北朝鮮の随行員たちは、ここまで徹底的に「痕跡」を拭き取ろうとしていたのでしょうか。FNNソウル支局の柳谷圭亮記者は、この随行員の行動が金総書記の「生体情報」の流出を防ぐためのものだと分析しています。例えば、指紋は機密文書へのアクセスに使われる可能性があり、体液からはDNAや健康状態が分析され得るからです。もし万が一、「重病説」のような情報が外部に漏洩すれば、北朝鮮の体制そのものに大きな影響を与えかねません。そのため、随行員たちは金総書記の健康や個人情報につながるわずかな手がかりさえも、極めて神経質に取り除こうとしていたと考えられます。これは、最高指導者の絶対的な権威と体制の安定を何よりも優先する北朝鮮の姿勢を象徴する出来事と言えるでしょう。
参考文献:
- FNNプライムオンライン. (2025年9月4日). 金正恩氏、会談後に“謎の行動” なぜ徹底的に拭き取る?背景を専門家が分析. Yahoo!ニュース.
https://news.yahoo.co.jp/articles/95f53bd076ba1371fff9fc89f313863ef45f4b82