日本のテレビドラマ界は、視聴者の多様化と配信サービスの台頭により、常に変化の波に晒されています。この秋、各局はどのような戦略で視聴者を惹きつけようとしているのでしょうか。特に若者層の獲得に注力する局がある一方で、長年のファン層を重視する動きも見られます。本記事では、2025年秋ドラマの動向を分析し、テレビ局の戦略や、これからのドラマ界を担う新進気鋭の脚本家たちに焦点を当てます。
TBSとテレビ朝日:安定の強さ
TBSは、安定した品質で定評のある日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』と、議論を呼ぶタイトルが話題の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が人気を博し、首位を維持しています。 一方、テレビ朝日は異色作で注目を集めるだけでなく、『相棒』や『緊急取調室』といった厚いファン層を持つ人気シリーズの続編を投入し、こちらも好調な結果を残しています。 これらの局は、長年の実績と質の高いコンテンツ制作力で、確固たる地位を築いていると言えるでしょう。
日本テレビ:若者層と考察ドラマへの注力
かつて視聴率王者として君臨した日本テレビは、ドラマの視聴率では苦戦しているものの、「若者重視路線を加速させている」と制作会社ディレクターは分析しています。 例えば、『良いこと悪いこと』では、地上波と配信でサブタイトルを「冒頭1分1人死ぬ」のように変え、TVerなどの配信サービスでドラマを視聴する層に響くような、分かりやすい盛り上がりと仕掛けを取り入れています。 また、スマホでの視聴を前提とした1~3分の「縦型ショートドラマ」を深く研究している点も特徴です。 放送作家の愛田プリン氏も、「日テレが考察好きの視聴者を取り込むことに注力しているのは、若者がターゲットだから」と指摘しています。 過去に『占拠シリーズ』など数々の考察ドラマをヒットさせてきた経験から、公式HPやX(旧Twitter)のクオリティも非常に高く、人物相関図の文章や写真にまでヒントを隠すことで、繰り返し視聴を促し、SNSでの盛り上がりを他局よりも高めています。
フジテレビ:迷走する「月9」と内部の苦悩
一方で、「潮流に逆行している」と関係者が危惧しているのがフジテレビです。 看板枠である「月9」に『絶対零度〜情報犯罪緊急捜査〜』を「新章」と銘打って投入し、沢口靖子(60)を主役に据えたことが波紋を呼んでいます。 愛田氏は「Z世代は沢口さんの代表作『科捜研の女』を見ていないわけで、『なぜ、今?』感が拭えない」と疑問を呈し、4月期の月9も『続・続・最後から二番目の恋』であったことから、かつてトレンディドラマの一時代を築いた枠で中高年層を取り込もうとするフジテレビの戦略に首を傾げています。 2018年に沢村一樹(58)主演で『絶対零度』の前シリーズが放送された際も現場から疑問の声が上がりましたが、これは「上からの指示だった」とスタッフが明かしていたとされます。 今回もトップダウンで往年のヒット作に頼った可能性が指摘されており、調査官役の黒島結菜(28)を主人公に据え、沢口を脇に配置すれば新鮮味を出せたかもしれないとの見方もあります。
真夏のロケ現場で暑さにぐったりする新木優子
秋ドラマの企画・撮影が、ちょうどフジテレビの内部問題が表面化し、編成幹部の聴取や第三者委員会の調査が進む中で行われたため、現場の苦労は並大抵ではなかったとキー局プロデューサーは同情します。 パワハラ・セクハラ上司が残留する中で仕事を進めなければならないという「制約」が、今回の月9の保守性に繋がった象徴的な出来事だと言えるでしょう。
新世代脚本家の台頭:ドラマ界の希望の星
こうした「制約」にがんじがらめの中、希望の星となっていたのが、数年かけて仕込まれていたという三谷幸喜脚本、菅田将暉主演の『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』でした。 二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、小池栄子、市原隼人、アンミカらオールスターキャストで期待値は高かったものの、視聴率が振るわず、配信では第1話の再生回数236万回から第3話で90万回へと半数以上が脱落するという厳しい状況にあります。 キー局プロデューサーは、三谷氏の前作映画の苦戦と同様、「盛り込みすぎでとっ散らかっている」「誰も『これはマズい』と言えなかったのだろう」と分析しています。 フジテレビは、この作品で反転攻勢の狼煙を上げたかったものの、月9も迷走し、勝ち筋を見つけられずにいると見ています。
しかし、今クールの特徴の一つは、新しい脚本家たちの台頭です。 TBS系『フェイクマミー』の園村三氏は、「ネクストライターズチャレンジ」で大賞を受賞した次世代の才能です。 失業中の独身キャリアウーマンが、元ヤンキーの女社長のために偽ママとして子どものお受験に挑むという秀逸なストーリーは、働く女性や子育て中の女性が抱える社会的な負担を考えさせつつも、重くなりすぎない演出と脚本で男性にも見やすいと評価されています。 波瑠(34)と川栄李奈(30)という若手演技派二人の演技も安心して見られる点も魅力です。 また、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の脚本を担当する安藤奎氏は、劇団を主宰する32歳の女性で岸田國士戯曲賞に輝いた実力派です。 「凶暴化したオフィスのドアとOLが戦うという不条理ホラー」が代表作というのだから底知れません。 地上波ドラマはこれが2作目というのも驚きです。 日本テレビ系『ぼくたちん家』の松本優紀氏ら、テレビ局のライターズルームで養成された脚本家の起用が今後も続きそうです。
キー局プロデューサーは、「大御所の脚本は歩留まりが読みやすいが、逆に言えばハネないことも多い。新人や舞台の才能を積極的に登用して、新陳代謝を図ろうという動きが出てきている」と語ります。 時代を切り取るのは若い世代にしかできないことであり、時代を映すドラマがそこに敏感になっている証左だと締めくくっています。
2025年秋のドラマシーズンは、各テレビ局がそれぞれの戦略を模索し、特に若年層の獲得と新陳代謝を求める動きが顕著になりました。フジテレビの苦悩や日本テレビの革新的なアプローチ、そして新たな才能を持つ脚本家たちの登場は、今後のドラマ界の未来を占う上で重要な意味を持つでしょう。視聴者としては、こうした背景に思いを馳せながら、秋ドラマの多様な作品群を存分に楽しむことができるはずです。





