2025年前期の連続テレビ小説『あんぱん』では、主人公・柳井のぶの母である羽多子(演:江口のりこ)の存在感が際立っています。特に第115話でパン職人・屋村草吉(演:阿部サダヲ)と娘たちが再会した際、羽多子が見せた「どこいっちょったがですか!」と怒鳴るなど、感情豊かなリアクションは視聴者の間で大きな話題となりました。草吉がのぶたちを「老けたな」とからかう一方、羽多子は白髪まじりながらも姿勢良く、以前と変わらない元気な姿を見せており、その年齢に対する疑問の声も上がっています。ドラマの舞台が1967年夏の時点で、羽多子は一体何歳になっているのでしょうか。そのモデルとなった実在の人物の生涯を紐解きながら、ドラマの今後の展開を探ります。
『あんぱん』での羽多子の活躍と注目される年齢
朝ドラ『あんぱん』において、江口のりこさん演じる羽多子は、そのユニークなキャラクターと強い存在感で物語に彩りを加えています。特に、高知県御免与町から東京に上京し、のぶたちと同居を始めてからも、彼女の持ち前の元気と大きなリアクションは健在です。第114話では、次女・蘭子(演:河合優実)と八木信之介(演:妻夫木聡)の関係を瞬時に察知する鋭さを見せ、その洞察力にも注目が集まりました。劇中、屋村草吉が「老けたな」と口にする場面がありましたが、羽多子の若々しさは変わらず、1967年の夏という設定の中で、彼女が実際に何歳なのか、多くの視聴者が気になるところです。
江口のりこさんの宣材写真。朝ドラ『あんぱん』で主人公・暢の母「羽多子」を演じ、その存在感で話題を集めている女優の姿。
実在の人物、暢さんの母・登女さんの生涯を紐解く
羽多子のモデルとなったのは、『アンパンマン』の作者やなせたかしさんの妻である暢さん(旧姓:池田、1918年5月18日生まれ)の実母、登女(とめ)さんです。登女さんに関する記録は決して多くありませんが、やなせさんと暢さんが出会った高知新聞時代を中心に描かれた書籍『やなせたかし はじまりの物語:最愛の妻 暢さんとの歩み』(高知新聞社)にはいくつかの貴重な情報が記されています。登女さんは、かつて日本一と称された総合商社・鈴木商店に勤務していた池田鴻志さん(1924年に39歳で死去)と結婚し、3姉妹のほかに長男・穣さんをもうけました。
同書によると、1988年に暢さんがやなせさんと共に朝日新聞のインタビューを受けた際、同居していた登女さんは92歳でした。さらに、登女さんは大変長生きし、1996年に101歳でその生涯を閉じたことも記録されています。これらの情報から逆算すると、登女さんは1895年生まれと推測でき、ドラマの舞台である1967年時点では72歳だったことになります。もし羽多子にも同じ設定が適用されているならば、彼女はまだ後期高齢者には入っておらず、その元気な姿も史実と一致するでしょう。
ドラマ『あんぱん』における羽多子の運命
実在の暢さんは1993年11月にがんで亡くなりましたが、母である登女さんは娘より3年長く生き、1996年まで生きていました。この史実を踏まえると、朝ドラ『あんぱん』において、主人公の肉親の死が描かれるのは悲しい展開ですが、「羽多子さんロス」が比較的早い段階で訪れる可能性は低いと考えられます。
一方で、やなせたかしさんの自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)には、アニメ『それいけ!アンパンマン』が始まった1988年10月頃には「妻の母は老人ボケが進んで入院」したと記されています。この記述から、ドラマ『あんぱん』の羽多子も、どこかのタイミングで急激に老け込む、あるいは体調を崩す可能性はありますが、それはまだ先の展開となりそうです。現時点では、羽多子の衰え知らずの活躍が、物語にさらなる深みとユーモアをもたらし続けることでしょう。
参考文献
- 高知新聞社編『やなせたかし はじまりの物語:最愛の妻 暢さんとの歩み』高知新聞社、2014年。
- やなせたかし『人生なんて夢だけど』フレーベル館、1998年。