警察官に課される「隠れたノルマ」:成績評価がもたらす現実

警察官としてのキャリアは、多くの人にとって正義感に燃える崇高な職務と映るかもしれません。しかし、現場で汗を流す末端の警察官には、一般にはあまり知られていない厳しい現実が存在します。約20年の勤務経験を持つ元警察官、安沼保夫氏の著書『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)から一部を抜粋し、その知られざる内情、特に警察官の「成績評価」にまつわるプレッシャーについて掘り下げていきます。地域警察官が直面する職務質問や交通違反取り締まりの「ノルマ」とも言える実態とはどのようなものなのでしょうか。

成績評価の実態:「職質検挙」と「交通取り締まり件数」

地域警察官の仕事はどのように評価されるのでしょうか。端的に言えば、その評価は「職務質問による検挙数」と「交通違反取り締まり件数」によって左右されます。これらの数値が高ければ「優秀」とされ、少なければ「尻を叩かれる」のが現実です。例えば、給料日後の金曜日の夜は、飲酒後の帰宅中に終電を逃し、路上に停められた自転車を失敬する人が増える傾向にあるため、上司からは「花金(華の金曜日)チャンスですよ!」と、検挙数や取り締まり件数を増やす絶好の機会として「ハッパをかけられる」ことも少なくありません。

職務質問や交通取り締まりのプレッシャーと向き合う警察官のイメージ写真職務質問や交通取り締まりのプレッシャーと向き合う警察官のイメージ写真

上司からのプレッシャーと「事実上のノルマ」

このような成績評価は、地域課の課長や統括係長(警部補)といった上司から常にプレッシャーとしてかけられます。月の初めには「今月早めに検挙しておけば、あとが楽ですよ」と穏やかな口調で促される一方で、月の下旬になっても成績が振るわない場合には「実績がないと分限(分限処分、つまり懲戒ではないが公務員としての職務遂行能力の欠如などによる異動や降格、免職などの不利益処分)になるよ」と脅されることもあると言います。

このプレッシャーは若手警察官に限らず、先輩警察官にも共通する「宿命」であり、地域警察官であれば誰もが「取れ高」を求められ、職務に奔走することになります。具体的には、1当務(日勤と夜勤の1サイクル)で交通違反の切符1.5本が「努力目標」とされ、二人一組であれば合計3本が合格ライン。職務質問による検挙は、1人あたり月1件が目安とされています。真面目に努力すれば達成可能な目標ではあるものの、110番通報が立て込んだり、雨天で人出が少ない日があったりといった外的要因も大きく、成績が上がるかどうかは運任せの部分もあるのが実情です。

「ノルマ」がもたらす影響

このように、事実上の「ノルマ」が存在する環境は、警察官の職務遂行にどのような影響をもたらすのでしょうか。本来、市民の安全を守るための職務が、数値目標の達成に重点が置かれることで、その本来の目的から逸脱する可能性も指摘されています。成績を上げるための職務質問や取り締まりが、市民の視点から見て必要性や正当性を欠くケースに繋がりかねないという懸念も生じます。この「ノルマ」の実態は、警察官という仕事の奥深さと、その職務の複雑さを物語っています。

参考文献

安沼保夫『警察官のこのこ日記』三五館シンシャ