リニア中央新幹線の開業がなぜ遅れてしまったのか、その深層には静岡県とJR東海間の複雑な問題が横たわっています。ジャーナリストの小林一哉氏によると、元凶とされた川勝平太前知事は当初からリニアに反対していたわけではなく、両者の「ボタンの掛け違い」が問題をこじらせたと言います。そして、これから始まる地域住民説明会は、この問題を解消する絶好の機会とされています。
JR東海が直面する大きな課題は、大井川の水資源保護に関する地元住民への誠意ある説明です。この問題は、単なる技術的な解決に留まらず、地域社会との信頼構築に深く関わっています。
JR東海による住民説明会の様子
大井川流域住民への説明会、その背景
JR東海は、2025年11月21日から2026年1月31日にかけ、静岡県島田市を皮切りに大井川流域の8市2町でリニア中央新幹線のトンネル工事に関する住民説明会を順次開催します。これらの説明会では、JR東海の担当者がパネルや映像を用いて大井川の水保護への取り組みを紹介し、住民からの個々の疑問に答える形式が取られます。
これは、今年3月と4月に開催された初回説明会に続く2度目の試みです。今回の説明会は、静岡県とJR東海の間で「対話を要する事項」として残されていた28項目のうち、水資源に関連する6項目全てが6月までに合意に至ったことを受けて開催されます。形式上は、大井川の水資源問題がすべて解決した後に初めて開催されることになりますが、地域住民の理解を得られるかが今後の焦点となります。
川勝前知事が求めた「全量戻し」とは
静岡県は川勝平太前知事の時代から、リニア工事中に流出する湧水の「全量戻し」をJR東海に強く求めてきました。これに対し、JR東海は毎秒2トンに及ぶ県外流出については導水路の設置とポンプアップにより「全量戻し」を表明しています。
特に問題となったのは、県境付近の工事における県外流出です。川勝前知事は、水一滴たりとも県外に流出させることを許さないという強い姿勢で臨んでいました。JR東海は、山梨県側からの掘削が静岡県側の先進坑と接続する約10カ月間で、最大500万トンの湧水が山梨県側に流出すると試算。県はJRに対し、この流出への対応策を求めていました。
2022年、JR東海は東京電力リニューアブルパワーの協力を得て、山梨県側への流出量と同量を大井川の田代ダムで取水抑制することで、大井川の流量を確保すると表明しました。静岡県の専門部会は、田代ダムでの取水抑制が困難な場合の対応や、渇水期を避けた施工などを求め、最終的に田代ダム取水抑制案に対するJR東海の計画を了承しました。これにより、静岡県が求めていた「全量戻し」の問題は解決され、南アルプストンネル静岡工区の着工への道筋が見えたかに思われました。
残された「根本的な課題」:住民への誠意ある説明
しかし、技術的な合意が形成された一方で、根本的な問題は解決されないまま残っています。それは、地域住民への誠意ある説明がまだ十分ではないという点です。どれほど専門的な対策が講じられても、直接影響を受ける住民が納得し、信頼を寄せなければ、プロジェクトの円滑な進行は困難です。
今後の住民説明会は、JR東海が地域住民と真摯に向き合い、彼らの不安や疑問に丁寧に応えることで、失われた信頼を回復し、リニア中央新幹線建設への道筋を確かなものにするための極めて重要な機会となるでしょう。
参考文献:
- Yahoo!ニュース. (2025年11月19日). リニア中央新幹線の開業はなぜ遅れてしまったのか. https://news.yahoo.co.jp/articles/2096682db031d4e31c9824cc275f06c4ef4f192e





