警察や軍関係、そして暴力団組織の内部事情に精通する情報提供者「ブラックテリア氏」によると、指定暴力団六代目山口組は今年8月、組員に対して新たな「厳守事項」を通知しました。その内容は、過去にも度々通達されてきた特殊詐欺や闇バイトへの関与禁止が主ですが、ある元組長はこれに対し、「今さらだけどね」と皮肉交じりの言葉を漏らしています。この通達は、変化する暴力団の規範と、社会情勢への対応を示唆しています。
六代目山口組が示す「仁侠道」の原則
今回通知された厳守事項は二つの項目から構成されています。特に「厳守事項1」では、特殊詐欺を「卑劣な犯罪」と明確に断罪し、山口組の組員に対して「任侠道を歩む者であることを自任し、外道の行いを許してはならない」と強く説いています。これは、極道である山口組組員が、仁義を重んじ、弱きを助け強きをくじくという伝統的な任侠道に則り、特殊詐欺のような非道な行為を厳しく禁じる姿勢を強調するものです。この「外道」という言葉は、従来の暴力団が自らを律する上での重要な規範意識を示しており、組織としての品位を保とうとする意図がうかがえます。
指定暴力団六代目山口組の総本部建物。特殊詐欺関与禁止の「厳守事項」が通達された背景を映し出す。
過去の通達と現代の「闇バイト」問題
特殊詐欺を「外道」と位置づける通達は、今回が初めてではありません。2020年5月には、指定暴力団稲川会が組員らに向けた「『稲川会規約』総本部通知」の中で、「特殊詐欺は、何ら落ち度なく判断能力が低下している老人等を狙い撃ちにし、個人的な生活資金を騙し取るもので有って、誠に卑劣である」と、任侠道の精神を引き合いに出しながら特殊詐欺の卑劣さを断じています。この共通認識は、暴力団社会全体で特殊詐欺が社会からの非難の的となっていること、そして組織の存続に関わる脅威と認識されていることを示唆します。
しかし、元組長は「古いタイプのヤクザは仁義や任侠道を重んじる。年寄や弱い者はいじめない。特殊詐欺にしても高齢者からは奪うようなオレオレ詐欺はしない。やるのは不動産投資詐欺などで、狙うのは金を持っているやつら」と語り、伝統的なヤクザと現代の「若い組員」との間の意識の乖離を指摘します。彼ら「若い組員」にとっては、仁義よりも金銭的利益が優先される傾向にあり、この価値観の変化が「闇バイト」のような新たな犯罪形態への関与を助長していると見られています。
違反者への厳罰と他組織との連携
稲川会の規約では、特殊詐欺への関与を厳禁とし、首謀、実行の一部への加担、便乗、さらには利益の受領さえも禁じています。違反が明らかになった場合は、「理由の如何を問わず破門・絶縁等、厳重なる処分を科す事とする」と明記されており、その罰則は極めて重いものです。これは、組織に対する裏切り行為として、最も厳しい制裁を科すという断固たる姿勢を示しています。同様に、山口組に限らず、他の暴力団組織も特殊詐欺への関与禁止とそれに対する処分については、ほぼ横並びで厳しい対応を取っています。これは、社会からの厳しい視線や警察による取り締まり強化に対応し、組織の存続を図るための共通戦略であると考えられます。
結論
六代目山口組による「厳守事項」の再通達は、特殊詐欺や闇バイトといった現代的な犯罪形態が、伝統的な「任侠道」を掲げる暴力団組織の根幹を揺るがしつつある現状を浮き彫りにしています。組織が仁義や道徳的原則を強調する一方で、経済的誘惑に駆られる若い組員の行動をどこまで抑制できるのか、その効果は今後の動向によって試されることになるでしょう。この通達が、暴力団の社会におけるあり方、そしてその内部構造の変化をどのように導くのか、引き続き注目が集まります。