石破茂首相は9月7日午後6時、緊急記者会見を開き、自ら「自由民主党総裁の職を辞すことにいたしました」と表明し、総理の座を退く決断を下した。7月の参院選における自民党の大敗の責任を自らに帰し、今後開催される総裁選への出馬も見送ることを明言。これにより、わずか1年足らずで石破政権はその幕を閉じることとなった。この辞任は、総裁選の前倒しに関する意思確認が予定されていた9月8日の前日という、まさに間際での発表であり、永田町に大きな衝撃を与えている。
石破茂首相が緊急記者会見で自民党総裁辞任を表明する瞬間
決断を促した「辞任前日夜の会談」
石破首相の辞任という重大な決断には、前日夜に行われたある会談が大きく影響したと見られている。自民党の政務調査会で長年調査役を務めた政治評論家の田村重信氏は、「最後は2人が引導を渡したのでしょう」と語る。この「2人」とは、9月6日夜に石破首相と会談した菅義偉元首相と小泉進次郎農林水産相のことだ。
菅氏は昨年の総裁選で石破首相を支援した経緯があり、小泉氏もコメ不足問題で前農水相が更迭された際、石破首相によって農水相に起用され、政権の窮地を救った現職閣僚である。この会談で、菅氏は約30分で退席したが、小泉氏と石破首相はその後2時間近くにわたり話し合ったという。
昨年の総裁選で石破首相を支持したある衆院議員(A氏)は、会談の内容についてこう明かす。「菅氏は『党が割れかねないので、自ら辞めてはどうか』と石破首相に進言し、小泉氏もうなずきながら聞いていたそうだ。菅氏が席を立った後は、小泉氏が石破首相に対し、総裁選の前倒しを求める党内の強い勢いや、『今は党の一致結束が大事』であることを話したとされる。この2人の進言を跳ね返すことは、石破首相を完全に孤立無援の状態に陥れることを意味した。結果として、辞任するしかないと判断したのだろう」。
解散総選挙の夢と孤立、そして対米交渉の着地点
A氏によると、石破首相には一時は、総裁選が前倒しされるのであれば解散・総選挙を行い、国民に信を問うという考えもあったという。「総裁選の前倒しが賛成多数となった場合、解散・総選挙を断行するには、小泉氏を党幹事長などの要職に起用し、その支援を得ることが最大の焦点だった。しかし、小泉氏は自身が前倒しを要求するかどうかの意思を表明せず、6日の会談でも石破首相にその意思を明かさなかった。小泉氏が幹事長などの要職に就かなければ、総選挙は戦えない。その時点で、解散・総選挙は無理だと判断したのでしょう」とA氏は分析する。
田村氏もまた、「石破首相の頭には、解散・総選挙という選択肢もあっただろう。しかし、そこで小泉氏が味方についてくれるか判然としないとなれば、残された道は辞任しかなかった。加えて、アメリカとの関税交渉も着地点が見え始めており、これを手土産に辞任すれば、なんとか面目を保てると考えたのかもしれない」と指摘する。
一方、旧安倍派の衆院議員(B氏)は、異なる視点からの見方を示す。「石破首相は、史上初の総裁選前倒しという形で、党から不信任を突きつけられるような辞任を避けたかったのだと思います。さすがにそれは格好悪すぎる、という判断があったのでしょう」。党内の不信任という形での失脚を回避し、自らの意思で辞任を表明することで、最後の政治的矜持を保とうとしたとの見方だ。
わずか1年の短命政権が残すもの
石破茂首相の突然の辞任表明は、日本の政治に大きな波紋を広げている。参院選での大敗という責任問題、菅元首相と小泉農水相からの進言、そして党内の「不信任」という形式を回避したいという思惑が複雑に絡み合い、短命政権の終焉を決定づけたと言えるだろう。この辞任により、自民党は急遽、新たな総裁選の準備に入り、次期総裁の有力候補を巡る激しい政治闘争が始まることが確実視されている。石破政権が残した課題と、今後の日本の政治の行方に注目が集まる。
参考文献
- Yahoo!ニュース (2025年9月8日). 石破茂首相が辞任を表明. (オリジナル記事への参照)