東欧チェコ共和国の幹線道路で6年間にわたり目撃され、「幽霊」と称されたF1スタイルのレーシングカーの運転手が、ついに逮捕された。この事件は、公道の安全を脅かす違法行為として注目を集め、当局の長年の捜査を経て解決に至った。赤いF1型の車両が公道を違法に走行しているという最初の通報から、身元不明の運転手を特定し拘束するまでの道のりは、チェコ警察にとって根気のいる挑戦だった。
6年間逃亡を続けた「幽霊レーシングカー」の正体
事件の発端は6年前、赤いF1型レーシングカーが公道を違法に走行しているという通報が警察に寄せられたことに遡る。当局は運転手の逮捕に尽力したものの、身元の特定には至らなかった。しかし、2024年7月7日午前8時15分頃、首都プラハの南西約40キロに位置するドブジーシュ近郊のガソリンスタンドで、問題のレーシングカーが確認された。
中央ボヘミア州の警察報道官によると、最初の通報からわずか2分後には、別の通報者から、レーシングカーがD4幹線道路をプリブラム方面へ猛スピードで走っているとの情報が寄せられた。警察は直ちに複数のパトカーとヘリコプターを出動させ、約15分後には最初の目撃地点から約18キロ離れたブク市で運転手を拘束することに成功した。運転していたのは51歳の男性で、飲酒および薬物検査は陰性だったが、身元は明らかにされていない。警察に連行された男性は事情聴取に対し、発言を拒否したという。このレーシングカーは、2019年にはプラハと南ボヘミア州を結ぶ幹線道路で、2022年には中部ボヘミア州の別の幹線道路でも走行が確認されており、スピードカメラにはヘルメットを着用した運転手の姿が捉えられていたため、身元特定は困難を極めていた。
チェコの高速道路を不法走行していた赤いF1型レーシングカー。運転手はヘルメットを着用し身元特定が困難だった。
公道走行の危険性と違法性
チェコでは、F1スタイルのレーシングカーを公道で運転することは明確な違法行為である。警察は声明の中で、「この種のレーシングカーは、法的に定められた技術要件を満たしていないため、公道での運転は認められていない」と説明している。フォーミュラカーには鋭利なエッジがあるほか、適切なライトや方向指示器、ナンバープレート、その他の重要な安全装置が搭載されていない。警察は、フォーミュラカーなどレーシングカーの公道での運転は、運転手自身だけでなく、他の道路利用者にとっても極めて危険であると強調している。
逮捕時の緊迫した状況と今後の処分
逮捕の瞬間を捉えた映像はYouTubeやInstagramに投稿され、現地メディアは運転手とその息子が運営していたとされるアカウントに関連すると報じている。動画には、車両が家の庭に牽引される様子や、チェコ語で「警察だらけだ!」と叫ぶ声が映し出されている。運転手は車両から降りることを拒否し、警察が私有地に侵入していると主張した。しかし、警官は法律違反の疑いがあるため立ち入ったと説明し、指示に従うよう求めた。運転手は現場の警官と口論しながら警察に電話をかけたが、電話の警官からも現場の指示に従うよう伝えられたにもかかわらず抵抗を続けた。この対峙は10分近く続き、最終的に運転手は車から降り、連行された。
警察は今後、この事件を行政機関に移管し、最終的な処分が決定される予定だ。違反行為には、5000~1万チェココルナ(約3万5000~7万円)の罰金に加え、6カ月から1年の免許停止処分が科される可能性がある。
この長年の謎が解決したことは、チェコ国内の交通安全に対する意識を高めるだけでなく、法執行機関の粘り強い努力を示す事例として記憶されるだろう。公道での安全確保は、全ての道路利用者の協力と、規制の厳格な適用によってのみ実現される。
参考文献
- チェコの高速道路で繰り返し目撃されていたF1スタイルのレーシングカーの運転手が逮捕された (CNN経由Yahoo!ニュース)