認知症の複雑なメカニズム:アルツハイマー型認知症の初期症状と発症原因を徹底解説

近い将来、自分自身や大切な家族が直面する可能性のある「認知症」。高齢者の多くが罹患するこの疾患は、単なる物忘れとは異なり、その発症メカニズムや進行には複雑な要因が絡み合っています。特に認知症の中で最も多くを占めるアルツハイマー型認知症は、記憶力や判断力の低下といった特有の症状を引き起こしますが、具体的にどのような過程を経て発症し、進行していくのでしょうか。本記事では、アルツハイマー型認知症に焦点を当て、その発症メカニズムと初期症状を深く掘り下げて解説します。

認知症は多様な原因が重なり合って発症する

認知症を引き起こす疾患には、実にさまざまな種類が存在します。その中でも、アルツハイマー型認知症が全体の約60%と最も多くを占め、次いで血管性認知症が約20%を占めます。残りの20%には、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症、アルコール性認知症などが含まれています。

これらの病名は単独で診断されることが多いですが、実際には複数の原因が重なり合って発症することも少なくありません。例えば、アルツハイマー型認知症と診断されたケースの約30%は、脳血管障害、事故による脳挫傷、多量飲酒などが合併した混合型認知症であると考えられています。脳の検査で脳梗塞や脳外傷の痕跡が見つかっても、その影響が軽微である場合は、アルツハイマー型認知症単独の診断名となることが稀ではないのです。

長期にわたる過剰なアルコール摂取は、認知症の病状を悪化させる一因となることがありますが、脳の画像検査では直接確認できない場合もあります。また、うつ病の既往歴や、脳機能に影響を及ぼす特定の薬の長期服用も、認知症の進行に影響を与える可能性があります。このように、高齢期の脳には、長い人生で経験してきたさまざまな影響が複合的に積み重なり、認知症として発症してくるのです。そのため、正確な診断のためには、飲酒歴や精神疾患の病歴、服用中の薬剤に関する詳細な申告が不可欠となります。

高齢化社会における認知症の課題と脳の健康を考えるイメージ高齢化社会における認知症の課題と脳の健康を考えるイメージ

アルツハイマー型認知症の初期症状とそのメカニズム

アルツハイマー型認知症は、認知症全体の約6割を占める代表的な疾患です。その発症原因は完全には解明されていませんが、脳内の神経細胞の周辺に「アミロイドβ」という異常なタンパク質が蓄積し、「老人斑」と呼ばれるシミのようなものが形成されることが特徴です。その後、さらに神経細胞の内部に「神経原線維変化」という糸くず状の異常が認められるようになります。

老人斑と神経原線維変化というこれら二つの変化は、まず脳の頭頂葉や記憶に重要な役割を果たす海馬、そしてその周辺領域で発生します。時間をかけてこれらの異常は徐々に脳全体へと広がり、それに伴い神経細胞がゆっくりと死滅していくことで、脳機能の低下が引き起こされます。

記憶力低下の具体的な兆候

アルツハイマー型認知症が進行すると、特に新しい情報を記憶する能力、すなわち「記銘力」が著しく衰えます。これにより、日々の出来事や約束事をしっかりと覚えることが困難になり、学習能力も失われていきます。その結果、これまで当たり前にできていたことができなくなったり、重要な事柄を忘れてしまうケースが増えてきます。具体的な初期症状としては、以下のような例が挙げられます。

  • 買い物に出かけた際、店に到着した時点で何を買う予定だったかを完全に忘れてしまい、同じ商品を何度も購入してしまう。
  • 外出先で、どこへ向かっていたのかが分からなくなり、そのまま自宅に戻ってしまう。
  • 人との会話中に電話がかかってきて、会話を中断した後、電話を終えて元の会話に戻った際に、何を話していたのかを思い出せない。
  • 財布や健康保険証、鍵などの貴重品をどこに置いたか忘れてしまい、常に探し回っている。

これらの症状は、日常生活に大きな混乱をもたらし、本人だけでなく周囲の家族にも影響を及ぼすことがあります。

「見当識障害」と物忘れの違い

「少し前の出来事をすぐに忘れる」「昨日のことを覚えていない」といった記銘力の低下は、日常生活において様々な混乱を引き起こします。認知症の代表的な症状の一つに「見当識障害」が挙げられますが、本記事で挙げた「思い出せない」という物忘れのタイプは、必ずしも初期の認知症症状とは限りません。加齢に伴う一時的な物忘れや、疲労、ストレスなどが原因で情報を思い出せないことも多く、過度に心配する必要はありません。しかし、その物忘れが頻繁に起こり、日常生活に支障をきたし始める場合は、専門医への相談を検討することが重要です。

結論

認知症は、高齢化社会において避けて通れない重要な課題であり、その発症には多様な要因が複雑に絡み合っています。特に最も一般的なアルツハイマー型認知症は、脳内のアミロイドβや神経原線維変化といった異常が徐々に広がり、記憶力や判断力の低下を引き起こします。単なる加齢による物忘れと、認知症の初期症状としての記銘力低下は区別が難しいため、もしも日常生活に影響を及ぼすような物忘れが頻繁に見られる場合は、早期に専門医の診断を受けることが大切です。正確な診断と適切な対応は、症状の管理と生活の質の維持に繋がります。

参考文献

  • 伊古田俊夫『認知症とはどのような病気か 脳の構造としくみから全体像を理解する』(講談社)
  • Yahoo!ニュース(ダイヤモンド・オンライン掲載記事)「認知症とはどのような病気か?アルツハイマー型認知症の発症メカニズムを解説」2025年9月10日配信
    https://news.yahoo.co.jp/articles/b0178fbb85f3f00717f98952de8ceb2592a0e447