「無敵の人」とは、社会的に失うものがなく、何事にもためらいがない人物を指す言葉である。最近の石破茂首相は、多くの自民党員から見て、まさにこの「無敵の人」となりつつあるのかもしれない。情報筋によると、石破首相は、自民党総裁選挙が実施されることになれば衆議院を解散する意向を周囲に漏らしているという。具体的には「9月16日公示・28日投開票」という日程を主張しているとされ、8月の世論調査で内閣支持率が急上昇したことが、石破首相の自信を深めた一因だと見られている。
支持率急上昇に見る石破首相の自信
石破茂首相は、8月に行われた報道各社の世論調査結果に自信を深めていたとされる。例えば、8月23日から24日にかけて実施された共同通信の世論調査では、内閣支持率は前月比12.5ポイント増の35.4%に急上昇した。また、22日から24日にかけて行われた読売新聞とNNN(日本ニュースネットワーク)の共同調査でも、内閣支持率は同17ポイント増の39%を記録し、いずれも大幅な上昇を見せた。この支持率の回復が、多くの自民党議員が総裁選前倒しについて態度を明確にしなかった状況と相まって、石破首相が自身の地位を維持できると判断する根拠となった模様だ。
国会で演説する石破茂首相
両院議員総会での“失言”が事態を一変させる
しかし、9月2日の両院議員総会での石破首相の行動が、党内の空気を一変させた。総会に出席したある議員は、石破首相の冒頭のあいさつについては「現状を真摯に受け止める姿勢が見て取れ、とても良かった」と評価した。問題は、森山裕幹事長が辞意を含んだ「まとめ」のあいさつをした後、石破首相が再度マイクを握ったことだ。党内の慣例では、幹事長のあいさつで総会は終了するのが通例であり、このタイミングでの再発言は異例だった。この再度の発言は、森山幹事長を慰留しようとする意図があったと推測されるが、その内容は「グダグダと意味不明」で、タイミング的にも不適切だったと指摘されている。この出来事を境に、「石破降ろし」の動きが急速に加速することとなった。
側近からも辞意表明、広がる「石破降ろし」の動き
両院議員総会での一件以降、「石破降ろし」は加速の一途を辿っている。すでに辞意を漏らしていた森山裕幹事長は石破首相に進退伺を提出し、他の党三役も辞意を表明。さらに9月4日には、小渕優子組織運動本部長も石破首相に辞意を伝えた。同日午後には国会内で、遠藤利明元総務会長、山口俊一元沖縄・北方担当相、石田真敏元総務相、新藤義孝元総務相といったベテラン議員らが会合を開催。「総裁選を求める9月8日の署名提出期限の前に、石破首相がけじめをつけるべきだ」といった厳しい意見が交わされた。特に注目すべきは、この会合に渡海紀三朗前政調会長や田村憲久元厚生労働相も参加していたことである。渡海氏は石破首相と1986年の同期当選で「ユートピア政治研究会」を共に結成した同志であり、田村氏は石破首相が率いた水月会の元メンバーで、かつての側近と見なされていた。彼らの参加は、石破首相の孤立が党内深部にまで及んでいる現状を鮮明に示している。
結論
内閣支持率の一時的な上昇に自信を深めた石破茂首相は、衆議院の解散を示唆するに至った。しかし、両院議員総会での不適切な発言が引き金となり、長年の盟友や側近を含む党内の要職者からの辞意表明や退陣要求が相次ぐ事態を招いている。かつては多くの支持を集めた石破首相が、今や「無敵の人」として孤立を深め、自身の政治生命をかけた重大な局面を迎えている。自民党内の深まる亀裂は、今後の日本の政治情勢に大きな影響を与えることは避けられないだろう。
参考資料
- Yahoo!ニュース(東洋経済オンライン):石破茂首相に「死なばもろとも解散」を吹き込んだと噂される“黒幕”とは?