もし誰かがあなたに「もう二度と働く必要はない」と言ったら、あなたはどう思うだろうか？ イーロン・マスク氏は最近、AIの進化により2035年から2045年までに仕事が「選択的なもの」になり、さらにはお金さえも「無意味になる」と予測し、世界に衝撃を与えた。彼の見解によれば、数百万のロボットが全ての労働を担う未来が、私たちの目の前に迫っているというのだ。
AIが変える労働の未来：マスク氏の予測
マスク氏の予測は、現在の労働市場における不安とは大きく異なる。2025年、私たちは競争の激しい求人市場や大規模な人員削減に直面し、経済的な不確実性の中で「クワイエット・クイッティング」や「ジョブハギング」といった様々な生存戦略を模索してきた。しかし、もし嫌いな仕事に縛られる感覚や、人員削減の心配が過去のものとなる世界が到来するとしたらどうだろうか。マスク氏は、AIが労働の煩わしさをすべて取り除き、人々が働くか働かないかを選ぶ自由を得ると見ている。
イーロン・マスク氏の講演の様子
マスク氏の発言に見る矛盾と転換
しかし、この楽観的な未来像を提示するマスク氏自身が、過去には対照的な発言や行動をしてきたことに注目する必要がある。彼はかつて、AIスタートアップが生産性向上のために「9-9-6勤務スケジュール」（朝9時から夜9時まで週6日働く過酷な労働形態）を採用し、中国に勝つための「AIレース」で勝利しようとしていると報じていた。
また、2023年のドバイ世界政府サミットでは、ChatGPTを「文明の未来にとって最大の危険の一つ」と評した一方で、2022年には中国のテスラ従業員が「深夜3時まで働いている」ことを称賛し、米国人は「とにかく仕事を避けようとしている」と述べ、企業奴隷制を擁護していると非難されたこともある。さらに、EV企業でのリモートワークを廃止し、テスラの従業員7000人のほぼ半数を解雇した人物でもある。Delivering HappinessのCEOであるジェン・リム氏が2022年に述べたように、マスク氏はしばしば人々を「人間ではなく付随的な被害」として扱い、大規模な人員削減の方法において「基本的な人間の尊厳を忘れている」と批判されてきた。
このような過去の発言や行動から一転し、マスク氏は現在、働くことをスポーツやゲームをする選択、あるいは裏庭で野菜を育てるかスーパーマーケットで手に入れるかという選択になぞらえている。彼は、過労や嫌いな仕事に閉じ込められる感覚、生計のためにサイドビジネスを始める圧力といった日々が、今後10年から20年で終わると予測しているのだ。
結論：AIがもたらす選択と倫理的課題
イーロン・マスク氏の最新の予測は、AIが私たちの労働、経済、そして生き方そのものを根本的に変える可能性を示唆している。仕事が義務ではなく選択肢となる未来は魅力的である一方で、彼の過去の言動との間に見られる矛盾は、この転換期における倫理的な課題や社会的影響について、より深い議論が必要であることを示唆している。AIがもたらす真の恩恵を享受するためには、技術の進歩だけでなく、人間中心の価値観に基づいた社会システムの構築が不可欠となるだろう。
