NHK連続テレビ小説『ばけばけ』で、ヒロインの髙石あかりが演じるトキが嫁ぐことになるのがレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)という人物。モデルは『怪談』で知られるラフカディオ・ハーンこと小泉八雲で、39歳の時に日本に来てトキのモデルとなったセツと結ばれ、そのまま54歳で亡くなるまで日本に留まり続けた。英語教師として島根の松江に来た八雲は、それまでどこで何をしていたのか。日本で何をしたのか。そして何を日本に残したのか。
【写真】トキ(髙石あかり)に握手を求めるヘブン(トミー・バストウ)
■夏目漱石と“講師ポスト”を巡る知られざる確執
『夏目漱石ファンタジア』(ファンタジア文庫)というライトノベルがある。零余子の作で、文学者を弾圧する政府に反抗して爆殺された夏目漱石の脳が、冷凍保存されていた樋口一葉に移植されて蘇り、女性の体で治安を乱す敵と戦うというぶっ飛んだ内容で、その中に小泉八雲が漱石を憎む敵として登場する。
憎しみの理由は、東京帝国大学の講師の職を漱石に奪われたから。史実も同じで、八雲を慕い留任運動まで起こした学生に向き合うことになった漱石は、なかなかの苦労を強いられたという。
八雲の東大での講師生活は6年半に及んだ。この間に、八雲はブレイクやバイロン、ワーズワース、キーツといったロマン主義の詩人や、自身より年若で当時はまだ新鋭だったイェイツを講義で取り上げ、近代の日本における海外文学への関心をかきたてた。
池田雅之編訳の『小泉八雲 東大講義録 日本文学の未来のために』(角川ソフィア文庫)には、八雲の東大での講義から16編が収録されている。「妖精文学と迷信」という海外の幻想文学への言及から「文章作法の心得」まで、多彩な知識と教養に裏打ちされた講義が行われていたことが分かる。
■海外文学を“橋渡し”した小泉八雲の影響力
今なら翻訳も出ていて、ネットで最新の情報も取得できるが、八雲が東大で教えた1890年代後半から1900年代初めに、そうした海外の情報に日本人が触れる手段は限られていた。教え子に劇作家の小山内薫や詩人の土井晩翠がいて、日本の演劇や文学に新風を吹き込んだことを考えると、八雲の果たした役割は、日本の文化を海外に紹介したことに留まらず、日本に海外の文化をもたらす双方向のものだったと言える。
ドラマでヘブンがそうした活躍をするのはまだしばらく先のこと。10月28日放送の第22話でようやく日本の松江に到着したヘブンは、吉沢亮演じる錦織友一の助けも借りながら松江の街に溶け込んでいく。この錦織にも西田千太郎というモデルがいて、島根県尋常中学校の教頭として八雲を迎え入れ、日本の学生との接し方も教えて、八雲が教師として慕われる下地を作った。






