近年、中国による日本への“敵対的な行動”はエスカレートの一途をたどり、改善の兆しは見えません。昨年11月には、中国の官製メディアが相次いで沖縄県の帰属に疑問を呈する記事を公開し、日本の領土に対する野心的な姿勢が波紋を広げました。さらに12月6日には、沖縄本島南東の公海上空で中国軍のJ-15戦闘機が航空自衛隊のF-15戦闘機に対しレーダー照射を行うという、極めて危険な行為が発生しました。小泉進次郎防衛相もこれを「航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為」と強く非難しています。台湾を巡る「存立危機事態」に関する国会答弁以来、急速に悪化する日中関係の背景には何があるのでしょうか。
中国の「国恥地図」が示す領土的野心
中国が日本に向ける激しい感情の根源を探る手がかりとなるのが、譚ろ美氏の著書『中国「国恥地図」の謎を解く』です。この書によると、中国の強硬姿勢や領土的野心の起源には、中国が「立ち返るべき真の領土」を描いたとされる「国恥地図(こくちちず)」の存在があります。この地図は長年にわたり学校教育でも用いられ、国民の間に特定の歴史観と領土観を植え付けてきたとされています。著者である譚氏は、日本では馴染みの薄い「国恥」という概念がどのようなものであるかを苦労の末に調査し、その激情の矛先が日本にも向けられていることを明らかにしました。
中国の習近平国家主席
日本と中国における「恥」の意識の相違
「恥」という概念を考察すると、日本と中国ではその捉え方が大きく異なることに気づかされます。日本では「恥」は内密にされ、他人に知られないよう配慮するのが一般的です。例えば夫婦喧嘩をしていても、来客があれば普段通りに振る舞うなど、「私的な恥」が露見することを避ける意識が働きます。日本では恥と感じる出来事から学び、反省し、あるいは秘かに相談する傾向があります。
しかし、中国では「私的な恥」の意識は希薄です。夫婦喧嘩が路上に飛び出し、激しく罵り合いながら通行人にどちらが正しいかを判定してもらうといった光景も珍しくありません。これは開放的で朗らかとも言えますが、度を過ぎると深刻な事態を招くこともあります。例えば2020年10月には、山西省朔州市の路上で夫婦喧嘩の末、夫が妻を殴り殺すという悲劇的な事件が発生しました。スクーターを運転中の夫が車にぶつかり、見て見ぬふりをしようとしたところを妻が諫め、逆上した夫が妻を何度も殴って殺害したのです。その場に居合わせた見物人たちはただ眺めるばかりで、誰も止めようとはしませんでした。これは、他人を助けたり仲裁したりすればトラブルに巻き込まれ、責任を問われることを恐れる意識が背景にあると言われています。この事件がSNSで広まると、国際的なマナーを身につけようとする意欲のある若い世代の中国人たちからは、一斉に非難の声が上がりました。
新潮社から出版された譚ろ美著『中国「国恥地図」の謎を解く』の書籍表紙
まとめ
中国が日本に対して示す一連の「敵対的な行動」の根底には、「国恥地図」に代表される歴史的・領土的な認識と、「恥」の概念における文化的相違が深く関わっていることが示唆されます。特に「国恥」という感情が、中国の対外政策や国民の意識に大きな影響を与えている現状は看過できません。国際社会の一員として、日本の安全保障環境を理解し、今後の日中関係の行方を見守る上で、これらの文化的・歴史的背景への理解は不可欠だと言えるでしょう。
参考文献
- 譚ろ美 著『中国「国恥地図」の謎を解く』新潮社





