「こどもホスピス」が日本で広がる意味:美那さんの「第二の家」での最後の輝き

病気や重い障害により命が脅かされている子どもたちが、子どもらしく日々を過ごせる場所、それが「こどもホスピス」です。イギリスで始まり、日本でもその取り組みが広がりを見せており、各地で活動が活発化する中、国も制度化に向けて動き出しています。本記事では、先天性の心臓病と闘った美那さんの事例を通して、こどもホスピスの重要性と、子どもたちとその家族にもたらすかけがえのない価値について深く掘り下げます。

「最後の望み」託した「うみとそらのおうち」

ブロー真由美さんは、先天性の心臓病を持つ娘・美那さんの余命が長くないことを2025年3月に知らされました。最後の望みをかけてセカンドオピニオンを求めた神奈川県立こども医療センターの医師からは、手術は不可能だと告げられ、深い絶望に打ちひしがれました。医療センター内の患者家族向け滞在施設「リラのいえ」に戻った真由美さんに、スタッフが手渡したのは「横浜こどもホスピス うみとそらのおうち」(通称:うみそら)のパンフレットでした。

この施設は横浜市金沢区の海辺に位置し、室内ブランコや大きなお風呂、たくさんのおもちゃが揃っています。小児がんなどの難病や重い障害を持つ「LTC」(Life-Threatening Conditions)と呼ばれる子どもたちと、その家族が「第二のおうち」として思い思いに過ごせる場所として紹介されていました。資料を握りしめ、「せめて美那をここに行かせてあげたい」と強く願う真由美さんの心に、一筋の光が差しました。

病院を離れ「絶対行く!」家族で過ごしたかけがえのない時間

主治医のいる病院に戻り、ICUで過ごす美那さんに「うみそら」のパンフレットを見せると、「海に行ってみたい?」という問いかけに、美那さんは「絶対行く!」と即答しました。そして2025年4月、真由美さん家族は初めて「うみそら」を利用することになります。主治医やICUの看護師チームと「うみそら」の看護師スタッフによる事前のカンファレンスを経て、ドクターカーで病院から移動するという異例の措置が取られました。強心剤を投与しながら病院外へ出る、命をかけた外出でした。

美那さんが家族に囲まれ「うみそら」の風呂でリゾート気分を満喫する様子。ゲームやラーメンも楽しんだ。美那さんが家族に囲まれ「うみそら」の風呂でリゾート気分を満喫する様子。ゲームやラーメンも楽しんだ。

その日は1階でイベントが開催されていたため2階のみの利用でしたが、それでも狭い病室での生活が続いていた美那さんにとっては大きな喜びでした。川や海を望む大きな窓にはジンベイザメやウミガメのイラストが描かれ、2階では大好きなキャラクターのおもちゃたちが美那さんを迎えてくれました。温かい色彩に包まれた家族で過ごせる寝室や、まるでプールのようだと感じさせる大きなお風呂。湯に浸かれたのは足だけでしたが、施設側が用意した花飾りの「レイ」やカラフルなパラソルでリゾート気分を満喫。広々としたソファでお姫様のようにくつろぎ、家族に甘え、思う存分遊びつくしました。

日本で広がる「こどもホスピス」の意義

真由美さんが「そろそろ帰ろうね」と声をかけると、美那さんは「また来れるよね!」と笑顔で尋ね、真由美さんも「そうね。次はお泊まりしようね」と応えました。しかし、残念ながら再訪は叶わず、美那さんは2025年6月11日、10歳2ヶ月で病院にて息を引き取りました。美那さんの短い人生の最後に訪れた「うみそら」での経験は、彼女とその家族にとって、何物にも代えがたい「第二の家」での輝く思い出となりました。

こどもホスピスは、重い病気と向き合う子どもたちとその家族が、病気のことだけでなく、子どもらしい時間を過ごし、家族との絆を深めるための重要な存在です。日本におけるこどもホスピスの広がりと制度化への動きは、美那さんのような子どもたちが最後の瞬間まで質の高い生活を送れるよう、社会全体で支えることの重要性を示しています。