2024年3月19日午後2時頃、東京・下北沢の築60年のアパートで発生した大規模火災は、若手芸人3人の生活を一瞬で奪い去りました。炎は彼らの家、財布、衣装、そして笑いのネタになりそうな思い出の品々まで、すべてを灰燼に帰しました。売れない芸人たちを襲った突然の悲劇。しかし、焼け跡から彼らが拾い上げたのは、予期せぬ前向きな感情と、かけがえのない絆でした。所属事務所も異なる30代の若手芸人たちが語る、火災の一部始終と、そこから見出した希望とは。
築60年「クソシェアハウス」での過酷な共同生活
火災に見舞われたのは、下北沢駅から徒歩わずか5分の場所にある築60年の木造アパートでした。家賃は3人合わせて9万6,000円、間取りは2Kという、若手芸人3人が暮らすには過酷な環境でした。彼ら自身も自嘲気味に「クソシェアハウス」と呼ぶほど、その老朽化は深刻でした。隙間風がひどく、冬には室内でも白い息が出るほどで、カーテンを二重にしても寒さは防げず、感覚的には「屋根があるだけの外」という状態だったといいます。押し入れは常に湿気に悩まされ、服をしまえば半年でカビだらけになるような劣悪な環境で、彼らはギリギリの生活を続けていました。
火災発生、それぞれの場所と状況
火事が起きた日、3人の芸人はそれぞれ異なる場所にいました。
ポテトカレッジのコモダドラゴンさん（以下コモダ）は、バイト前に家で横になりながらインスタグラムを見ていたといいます。センチネルのトミサットさん（以下トミサット）は、携帯料金を滞納し連絡が取れない状況で、お台場でテレビの収録中でした。豆鉄砲のホセさん（以下ホセ）は、後輩のYouTube生配信でポケモンバトルの準備をしていました。
火事に最初に気づいたのはコモダさんでした。「外がゴーゴーとうるさい。強風かと思って洗濯物を取り込もうとベランダを見たら、背丈ほどの炎に包まれていた」と語ります。「うわ、燃えとる！」と叫び、パニック状態に陥りました。ホセさんの元にはコモダさんから電話がかかってきましたが、「あかん」「これほんまにあかん」という言葉しか聞こえず、最初は冗談だと思ったそうです。
炎に包まれた現実と、それぞれの「地獄」
コモダさんはパニックで110番か119番か分からず、隣人に応急処置を尋ねたといいます。鍋で水をかけましたが効果はなく、他の住人の危険を感じて、アパートの全室のドアを叩き、「火事ですよ！」と伝えに行きました。幸いにも、他の部屋に人はいませんでした。その後、コモダさんは煙を吸って病院に搬送されましたが、「数日間風呂に入っておらず、汚れたパンツを看護師さんに見られてしまった」と、その時の恥ずかしいエピソードを語っています。
一方、テレビ収録中だったトミサットさんの携帯は止まっていたため、他の芸人から火事の知らせを聞きました。家の上空をヘリコプターが中継しているのを見て、事態の深刻さに驚愕したといいます。しかも、収録中の番組はダイエット企画で、「脂肪が燃えた！」と皆で連呼する回だったため、まさに「地獄」のような状況でした。ホセさんもポケモン配信中に炎タイプの技が出るたび心がざわつきましたが、最初はボヤ程度にしか思っておらず、1時間ほど配信を続けてしまったそうです。
焼け跡から見つかった「ミニサイズ化」した家電たち
帰宅したホセさんが目にしたのは、近所に18台もの消防車が並び、黄色いテープとホース、慌ただしい消防隊員が行き交う光景でした。自宅を見たホセさんは、「黒すぎて穴に見えた。『ここは家じゃない』と反射的に思った」と当時の衝撃を語ります。トミサットさんも消防隊員から告げられた「……全焼です」という言葉の重さが胸に沈んだと振り返ります。
焼け跡からは、火災の熱で信じられないほど「ミニサイズ化」した品々が見つかりました。ホセさんのPS4はPS2サイズに縮み、トミサットさんの30万円のMacBook ProはiPadサイズに。コモダさんのナイキのスニーカーは、「ナ」の文字しか残っておらず、「イキ」の部分は蒸発していました。さらに、テレビに取り付けていたFire TV Stickは、まさに「Fire Stick（燃える棒）」そのものになっていたと、彼らはユーモアを交えて語りました。
若手芸人「豆鉄砲」ホセ、「センチネル」トミサット、「ポテトカレッジ」コモダドラゴン
下北沢のシェアハウス全焼後の室内。散乱した焼け跡が見える
この悲劇によってすべてを失った若手芸人たちですが、彼らは焼け跡から意外にも「前向きな感情」と、深く「強固な絆」を見つけ出しました。過酷な状況下でも、彼らはそれぞれの形で困難に立ち向かい、ユーモアを忘れずに語り合いました。この経験は、彼らの芸人としてのキャリアだけでなく、人としての成長にも繋がるでしょう。すべてが灰になったからこそ見えた、真の価値がそこにはありました。
