アニメーション映画「この世界の片隅で」(片渕須直監督)に約40分の新しい場面を追加し、物語にさらに深い陰影を刻んだ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(同)が全国で公開された。ヒロインの声を担当した女優、のん(26)に話を聞いた。 (文化部 石井健)
追加
「この世界の片隅で」は漫画家、こうの史代(51)の同名漫画が原作のアニメ。昭和19年に広島県呉市に嫁いだ18歳のすず(声・のん)の日常を、柔らかい絵柄で静かに、しかし、戦時下の現実から目をそらさずに描く。
平成28年11月に小規模に封切られたが、口コミなどで爆発的に人気が広まり、興行収入は27億円、観客動員数は210万人を達成した。3年も上映した映画館もあった。日本アカデミー賞など、多数の賞も受けた。
これに約40分の新しい場面を追加して今月20日から全国公開されたのが、「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」だ。
加えたのは遊郭で働く女性、リン(声・岩井七世)のエピソードなど。リンについては、長くなるとの指摘から片渕監督が、28年版からカットしていた。
「リンさんとの交流を描くことでラストシーンの意味合いが、28年版から大きく変わった。監督が“新作”として世に出したいとおっしゃった意味が分かります」と話すのは、すずの声を担当したのんだ。
本当だったんだ
のんが振り返る。
「28年版の声の吹き込みをやっていたときから、監督は、『いずれ、またやってもらうかもしれない』とおっしゃっていた」
片渕監督は、28年夏の段階で、カットした部分の復活を含めて、もう一つの「この世界の片隅に」を作る意欲を燃やしていたわけだ。
もっとも、その後、この件の連絡は途絶えた。このため、のんは「あの話はなくなったんだ」と受け止めた。再び連絡があったのは30年。だが、真に受けなかったという。「本当だったんだ」と得心したのは令和元年7月、吹き込みのために録音スタジオに足を踏み入れたときだったと笑う。
チームのん
追加の吹込みは、リンとの場面から始まった。前回の吹き込みから3年ぶりだったが、声の演技について片渕監督から特に指示はなかった。そこでのんは、28年版の際の監督の演出を記憶の底から掘り起こした上で、28年版を見直し、監督の意図を再確認する作業から始めた。