公開中の台湾ドキュメンタリー映画「台湾、街かどの人形劇」(揚力州=ヤン・リージョウ=監督)は、存続の危機にひんした台湾伝統の手遣い人形劇「布袋戯(ほていぎ)」の継承に全精力を注ぐ人形師、陳錫煌(チェン・シーホァン)さん(88)の物語。陳さんの生きざまからは、時代に翻弄されてきた台湾史の一端が見えてくる。(WEB編集チーム 高橋天地)
異例の大ヒット
「観客は年々減り、伝承を担う人形師の後継者も少ない。このままでは先人から受け継いできた技は絶えてしまう。そこで私はドキュメンタリー映画に出演し、世界に布袋戯の魅力を伝えようと考えた」
陳さんは静かな語り口で決意を語った。
布袋戯は、17世紀に現在の中国・福建省南部から台湾への移民がもたらした人形劇が起源とされ、台湾語による大衆芸能として独自の発展を遂げた。皇民化政策の一環で日本の時代劇も演目に加えざるを得なかった日本統治時代を経て、戦後は1000を超える劇団が活動したとされる。だが、1970年代に人気は急速に衰えた。
人形師は色とりどりの華麗な布の衣装をまとった体長30センチほどの木製の人形の内部に指や竹串を入れ、頭、両腕、手首を動かす。「人間のしぐさを忠実かつ自然に表現するのが私の仕事だ。力強く生命力にあふれた人形の動きからは、おのずと情感すらも漂ってくる」。陳さんは布袋戯の魅力を語る。