【カイロ=佐藤貴生】サウジアラビアの司法当局が23日、昨秋に起きた反体制記者殺害事件で下した判決をめぐり、国連関係者などから批判する声が出ている。判決は犯行を指示したとも報じられたムハンマド・ビン・サルマン皇太子には触れていないもようで、サウジ政府は皇太子の関与を否定して事件に区切りをつけ、クリーンな印象の回復を急ぐ方針とみられる。
事件は昨年10月初め、トルコのサウジ総領事館で米国在住のサウジ人記者、ジャマル・カショギ氏が殺害されたもので、遺体は切断されて持ち運ばれたとみられ、発見されていない。カショギ氏は米紙などで皇太子の政策を批判していた。
国営メディアは23日、首都リヤドの裁判所が殺害に関与した5人に死刑判決を、犯行を隠蔽した3人に禁錮刑を命じる判決を出したと伝えた。
ロイター通信によると、殺害を指揮した疑いも指摘された皇太子の側近2人について、判決はカショギ氏をサウジに帰国させる方策などを協議しただけだ-と判断。殺害の方針は現場で決まったことだとし、2人は釈放された。
裁判は非公開で、有罪となった8人の氏名は公表されていない。2月に「サウジ当局によって計画された周到な殺人」との見方を示した国連のカラマード特別報告者は23日、サウジの司法が「偽物」であることを示したと批判した。トルコ政府高官も「遺体のありかなど重要なことが闇に隠されたままだ」と述べた。
サウジ政府と密接な関係にあるトランプ米政権の高官は、判決について「重要な一歩」だと前向きに評価したが、米情報当局筋は、中央情報局(CIA)の専門家は現在も皇太子が殺害を命令もしくは承認したと考えている-との見方を示した。