高崎芸術劇場(群馬県高崎市)が開館し、ベートーベンの交響曲第9番「歓喜の歌」が記念演奏会で鳴り響いたのは9月20日のことだった。
それから約2カ月後の11月18日。劇場の照明備品の指名競争入札をめぐり、業者側に予定価格を漏らしたとして、正副館長ら3人が県警に官製談合防止法違反などの疑いで逮捕される事態に発展し、市民に衝撃を与えた。
3人は今月9日、延長コードの入札でも予定価格を漏らしたとして、同容疑で再逮捕された。
関係者を驚かせたのは3人の富岡賢治市長との距離の近さだった。
市総務部企画調整課付課長で劇場副館長の佐藤育男容疑者(50)は市長秘書を務めた経歴があり、富岡市長から「大変優秀な職員」と評価されていた。
今年4月に市の施設を管理する高崎財団に派遣され、劇場のナンバー2に抜擢(ばってき)された。
劇場館長だった菅田明則容疑者(66)は、富岡市長が平成23年の市長選で初当選する前から、市が企画するイベントなどに関わり、市長とは知り合いだった。
「企画力、人脈がずば抜けている。余人をもって代え難い存在」
富岡市長から絶賛され、27年6月には高崎財団副理事長、昨年12月には劇場の初代館長に就任した。
市総合計画審議会委員や市緊急創生会議委員など市政のさまざまな場面で任用され、富岡市長の後援会幹部、高崎観光協会副理事長を務めていた。
「市長のブレーンという色合いが増す中で、気を遣わざるを得ない存在だったのは確かだ」
市の幹部職員はそう明かし、「今回の事件は(佐藤容疑者が)菅田容疑者の依頼に抗しきれなかったのでは」と類推する。
阿久沢電機(同市)社長だった阿久沢茂容疑者(68)も富岡市長の後援会連合会幹事長、高崎観光協会理事長を務め、市長と強いつながりがあった。
事件を受け、市はコンプライアンス室を設置。弁護士を室長に据え、法令解釈の助言とともに行政事務の適正な執行や不当要求対策などに対応するという。
富岡市長は「民間から就任する委員らには法令順守の重要性を改めて伝えることが大事になる」と話した。
組織のリーダーとして、「新しい施策をやるときに民間の力を借りることは間違っていない。今回は結果的に良くないことが起きてしまっただけに、忸怩(じくじ)たる思いはある」と表情を曇らせた。
非常に深い人間関係の中で起きた今回の事件。それぞれの立場で、自らを律する心がいかに大切かを感じさせた。
(椎名高志)