突然の犯罪被害に直面した際、多くの人が深い混乱と絶望に陥ります。そのような状況で、被害者側の立場に立ち、複雑な司法手続きやメディア対応を専門的に支援する弁護士が「犯罪被害者代理人」です。彼らは、被害者が直面する精神的・法的な負担を軽減し、声なき声に耳を傾け、正義の実現をサポートします。
性犯罪、交通事故、殺人事件など、多岐にわたる事件の被害者を支えてきた弁護士の上谷さくら氏は、その第一人者として知られています。特に、2019年に発生した池袋暴走事故では、被害者遺族である松永拓也さんと共に、加害者である飯塚被告の裁判に臨みました。本記事では、上谷氏の著書『犯罪被害者代理人』から一部を抜粋し、法廷で繰り広げられる加害者と被害者家族のやり取り、特に「被告人質問」の重要性について深掘りします。
犯罪被害者代理人とは?その専門性と支援の範囲
犯罪被害者代理人は、被害者が抱える様々な困難に対し、法的な専門知識をもって対応します。捜査機関との連携、損害賠償請求、証人尋問への付き添い、そしてメディアからの過剰な取材からの保護など、その支援範囲は広範に及びます。彼らは、被害者が再び日常を取り戻せるよう、多角的に支える存在です。
裁判所に立つ人のシルエット
上谷さくら弁護士のように、性犯罪や交通事故、殺人事件といった重大な事件に携わってきた経験は、被害者とその家族が抱える具体的なニーズを理解し、きめ細やかなサポートを提供するために不可欠です。犯罪被害者代理人の存在は、被害者が司法の場で孤立することなく、適切に権利を行使するための重要な柱となります。
被害者参加制度における「被告人質問」の核心
被害者参加制度の大きな柱の一つが、被害者参加人による被告人質問です。被告人質問とは、犯罪事実や情状について、弁護人、検察官、そして裁判官が被告人に質問し、被告人がそれに答える手続きを指します。まず弁護人が被告人に対し有利な事情を引き出し、それを受けて検察官が反対質問で供述の矛盾点を追及します。裁判官も適宜質問を挟むことがあります。
この制度において、被害者参加人や被害者参加弁護士は、検察官に続いて被告人に対し直接質問する機会が与えられます。これにより、被害者は自らの疑問や感情を直接被告人にぶつけ、真相解明の一助とすることができます。ただし、被告人には「黙秘権」があり、すべての質問に答える義務はありません。法廷での発言は、有利にも不利にも認定される可能性があるため、その対応は慎重を要します。
重大事件における被告人質問の戦略と検察官との連携
検察官は、起訴した以上、有罪であるという強い確信のもとで公判に臨みます。被告人が無罪を主張する場合、検察官は有罪立証のために膨大な労力を費やします。被告人質問では、被告人の発言内容が予測できないため、あらゆるケースを想定して反対質問の準備が進められます。
特に、池袋暴走事故のように被害結果が重大で社会の注目度が高い事件においては、有罪の認定を得るために非常に神経を使います。このような状況で、有罪立証の責任を負わない被害者参加人や被害者参加弁護士が被告人質問を行う場合、検察官との綿密な事前打ち合わせが不可欠です。被害者が知りたいことを直接質問したいという気持ちは理解できますが、その質問や被告人の答え方によっては、検察官の立証を妨げてしまう恐れがあるためです。
松永さんのケースでも、この説明がなされた上で、質問したい内容をすべて列挙してもらい、検察官と打ち合わせを行いました。検察官は「公益の代表者」として質問するため、その立場からは質問しにくい内容も存在します。一方で、ご遺族から直接質問された方がより効果的なものもあるため、質問内容を適切に分担する戦略がとられました。このような連携を通じて、被害者の声が法廷で最大限に尊重され、かつ法的な効果も期待できる形で届けられるのです。
結論
犯罪被害に遭った際、被害者とその家族が直面する困難は計り知れません。そのような中で「犯罪被害者代理人」は、法的な知識と経験をもって被害者を支え、複雑な司法手続きをナビゲートする重要な役割を担います。特に、被害者参加制度における「被告人質問」は、被害者が直接加害者に問いかけ、真相を求めることができる貴重な機会を提供します。
池袋暴走事故の事例が示すように、重大事件における被告人質問は、検察官との綿密な連携を通じて、その効果を最大化することが可能です。この制度と専門家のサポートが、被害者が正義を追求し、心の平静を取り戻すための重要な道しるべとなることを再確認できます。被害者の権利が尊重され、その声が司法の場にしっかりと届く社会の実現には、このような専門的な支援と制度の活用が不可欠です。





