相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で平成28年、入所者19人が刺殺され、職員を含む26人が重軽傷を負った事件では、発生の際、神奈川県警はアルファベットのAからSまでを使い、殺害された19人を、匿名で発表した。遺族らに事前説明した際、複数から匿名の要望が出たとされる。
その直後から、匿名での発表への疑問の声が一部では上がった。「(遺族らは)障害を隠したいのではないか」。そうした意見も漏れた。これに対し、遺族の50代女性は「存在を消したいわけではないが、実名を明かすのは怖い」などと打ち明けていた。
入所者の家族も苦悩を抱える。80代の女性は、59歳の娘を入所させていたが、事件で転園を余儀なくされたという。すぐ隣の部屋の入所者は事件で犠牲になった。ただ、娘はその事実を知らず、今もやまゆり園の入所仲間に「会いたい」と口にするという。「われわれがなぜ苦しめられなければならないのか」と女性は話した。
こうした中、始まる裁判員裁判。名前を出して取材に応じてきた、重傷を負った尾野一矢さん(46)の父、剛志(たかし)さん(76)は「この裁判を契機に障害を持つ人が穏やかに過ごせる差別のない社会になってほしい」と訴える。