中東レバノンで、反政府デモによる混乱が続いている。デモに参加する若者らの原動力は、政治家ら既得権益層に根付く汚職体質や縁故主義への怒り。現場では、同国に逃亡中の日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告も「腐敗した富裕階級」の一人として非難する声があった。(ベイルート 大内清)
18日夜、ベイルート中心部で、数百人のデモ隊が治安部隊と衝突していた。路面をはがして砕いた石を投げつける若者らに、治安部隊は放水銃や催涙弾で応戦。あたりには濃霧のようにガスが立ち込めた。この夜の負傷者は少なくとも220人に上った。
現場は、議会や政府施設のほか、欧米のブランドショップや高級ホテルも立ち並ぶ、ベイルートで最も華やかなエリアだ。デモ参加者らは昨年10月以降、富裕層の象徴ともいえるこの一帯周辺で道路封鎖などの抗議活動を展開。同様の動きは全国に広がった。
当初からデモに参加してきたというアリーさん(28)に日本の記者だと名乗ると、「自分たちの利益しか考えない腐敗した連中がレバノンをダメにしている。ゴーンもその仲間だ。日本から逃げればかくまってもらえると思ったのだろう」と語り始めた。
ゴーン被告は逃亡後の今年初め、レバノン人の弁護士グループから告発を受けた。日産在職中の2008年にイスラエルを訪問したことが、イスラエルのボイコットを定める法律に違反している-との訴えだ。
「これがもし僕なら、即座に刑務所行きだ。でもゴーンは悠々と暮らしている。これがレバノンの現実さ」。アリーさんは、自分たちの抗議運動とゴーン被告をめぐる事件は「根っこは同じ」だと話す。
レバノンで若年層の失業率は25%に上るとされる。通貨下落やインフレとも相まって、一般市民の生活は苦しさを増している。その一方で富裕層は、ゴーン被告のように複数の国籍を使い分け、海外に資産を移していることも珍しくない。
同国では昨年10月、デモの激化を受けて当時のハリリ首相が辞任を表明。その後は、正式な内閣が不在の「政治空白」が続いている。