【台北=田中靖人】台湾の蔡英文総統が22日、新型コロナウイルスによる肺炎をめぐり世界保健機関(WHO)への加盟を改めて求めた背景には、2003年に新型肺炎(SARS)が流行した際の苦い経験がある。台湾は当時、WHOからウイルスの情報を得られず、感染が拡大した。蔡政権はこの機会に、台湾のWHO加盟の必要性を国際社会に訴える構えだ。
「私を含め副総統、行政院長(首相に相当)はみな、17年前にSARSと戦った一員だ」
蔡氏は22日の談話を、陳建仁副総統と並んで発表した。蔡氏は03年の流行時、対中政策を主管する閣僚で、陳氏は行政院衛生署(当時=厚生労働省)の署長だった。台湾ではSARSに346人が感染し、うち73人が死亡。疑い例も含めると死者は計180人に達した。当局は院内感染が起きた病院を強制封鎖し、内外から注目された。
当時も「台湾は中国の一部」などとする「一つの中国」原則を認めない民主進歩党の陳水扁政権で、台湾は患者がSARSかどうかを確定する検体をWHOから入手できず、感染を拡大させた。
台湾は「一つの中国」を条件付きで認めた中国国民党の馬英九政権(08~16年)下で、09年から毎年のWHO総会にオブザーバー参加が認められたが、民進党の蔡政権発足翌年の17年からは再び出席が認められていない。
衛生福利部(厚労省)は、今回の肺炎は中国の衛生当局がウイルスのDNA情報を公開しており、台湾が持つ検査技術で4時間以内に確定が可能としている。だが、22日にジュネーブで開かれるWHOの専門家の緊急委員会に台湾代表は招待されておらず、今後の情報入手に不安が残る。
03年当時、中台間の航空直行便は解禁されておらず、SARSは中国広東省から香港経由でもたらされた。だが、馬政権で解禁された中台直行便は昨年11月の統計で、同月に往復4765便を約75万人が利用している。台湾では23日から春節(旧正月)の大型休暇に入り、人の移動が増える。当局は21日に初めて感染が確認された女性(55)と同じ飛行機に乗っていた46人の経過観察を行うなど、警戒を強めている。