自民党岸田派(宏池会)の古賀誠名誉会長が、次期首相(党総裁)に意欲を示す同派会長の岸田文雄政調会長を条件付きで後押しする考えを強調している。岸田氏よりも強い期待を寄せていた菅義偉(すが・よしひで)官房長官の勢いにブレーキがかかったことが影響したとの見方がある。ただ、古賀氏は安倍晋三首相が目指す憲法改正に反対の立場を貫いており、首相の支持も得たい岸田氏は難しいかじ取りを余儀なくされそうだ。
「宏池会政権を実現させるのは私の使命だ」
27日、大阪市で講演した古賀氏は「ポスト安倍」に触れ、岸田氏への期待感を示した。22日のBS-TBS番組でも「何のために首相を目指し、何をするのか発信してほしい。それがあれば岸田氏の『ポスト安倍』を実現したい。応援団になる」と述べている。
古賀氏は平成24年、自身が務めた宏池会会長の後継に岸田氏を指名した。同年の議員引退後も派の名誉会長を続けており、総裁選で支援するのは当然に思えるが、これまでの古賀氏は違った。
理由は首相と古賀氏との距離にある。首相は1日放送のテレビ朝日番組で、後継の有力候補として岸田氏に言及し、「次の総裁選に出ると明確に言っている。(次の打順を待って)バットをぶんぶん振っている」と語った。
一方、古賀氏は党是である憲法改正の実現を目指す首相を激しく批判してきた。25年には共産党機関紙「しんぶん赤旗」に登場し「憲法の平和主義は『世界遺産』に匹敵する」と強調。昨年9月には著書『憲法九条は世界遺産』を出版した。27日も首相が提起した憲法9条に自衛隊を明記する党改憲案に対し「自衛隊を書く必要はない。書き込む方が将来に禍根を残す」と反発した。
古賀氏は首相からの禅譲を視野に入れる岸田氏にも矛先を向け、昨年8月には「いくら禅譲といっても『つくしの坊や』じゃないが、ポキッと折れたら何もない」と厳しく批判。その一方、菅氏を「名家でもないし、大衆の中に生きてきた政治家だ。政権を担ってもらいたい」と新たな首相候補として持ち上げた。
だが、その菅氏は自身に近い菅原一秀、河井克行両氏の閣僚辞任もあり、「ポスト安倍」との呼び声はかすみつつある。党内の政治力学に連動する形で方針転換した古賀氏に対して、岸田派内には「男を落とした」と冷ややかな見方もある。岸田氏自身も周囲に「じゃあ、今まで応援してくれていなかったのかなあ」と語っている。
岸田氏にとってみれば、首相を立てれば古賀氏が立たず、逆もまたしかり。総裁選で首相を一貫して支持してきた党中堅は「岸田氏は股裂き状態だが、双方に良い顔はできない。総裁の絶対条件である『決断力』を試されることになる」と話している。(長嶋雅子、内藤慎二)