これでは仲介にならない。トランプ米大統領が発表した、イスラエルとパレスチナとの中東和平案のことである。
占領地ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地にイスラエルの主権を容認するとし、帰属を争うエルサレムについて「イスラエルの不可分の首都」と位置づけた。
国際条約は占領地への入植を禁じ、国連安全保障理事会も入植停止を求める決議を採択している。エルサレムの帰属は和平交渉の核心であり、最大の争点である。
米国の和平案は、イスラエル側に一方的に有利な内容だ。これではパレスチナ側は呑(の)めない。交渉が進展するはずもあるまい。
トランプ氏はパレスチナ国家に多額の投資を約束し、域内外から支援があると請け合った。「現実的な解決策だ」と自賛した。
1990年代の交渉開始以降、仲介が難航しているのは事実だ。トランプ氏はパレスチナ側との「取引」に自信を見せるが、本気でそう思っているのか。一方の当事者であるイスラエルの首相と公表の場に臨んだのも疑問だ。
そもそも、和平案の公表のタイミングが遅い。トランプ政権はすでに、エルサレムへの大使館移転を実行し、西岸へのユダヤ人入植活動も事実上、容認していた。
トランプ政権として先に中東和平の進め方を示し、関係国の理解を得る努力をするのが筋だった。それがなかったため、大使館移転発表の際など何度も、関係国を振り回し、パレスチナ自治区で抗議行動を呼んだ。
和平案公表は、イスラエル新政権発足後に予定され、昨年の2度の総選挙を経て政権が決まらず、先送りとなっていたものだ。
トランプ氏自身の大統領選を意識した公表となったのは明らかだろう。選挙イヤーを迎え、親イスラエルの有力支持層を固めておく必要があったとみられている。
より、気がかりなのは、石油供給源としての中東に依存しなくなった米国が、同盟国のイスラエル、サウジアラビアとの関係のみを重視し、中東の厄介な問題に真剣に取り組もうとしない兆候がここにも見えることである。中東和平の仲介役から降りてもらっては困る。
中東は10年前に始まった「アラブの春」以降の混乱が各地で続いている。地域の安定化には米国の関与と指導力が不可欠である。