日常生活の中心がFMラジオという記者にとって、昨年、大きな衝撃を受けた出来事といえば、在阪大手FM802(大阪市)などで看板DJとして大活躍したヒロ寺平さん(68)が9月末で引退したことだった。FMから流れる洋楽が若者文化を牽引(けんいん)した平成の時代。流暢(りゅうちょう)な英語で彼が紹介した楽曲の数々が今も心に深く刻まれている関西人は多いはずだ。一時代の象徴だったヒロさんと、どうしてもラジオの話がしたかった。引退から約3カ月後の昨年暮れ、仕事場を訪ねた。(聞き手 編集委員・岡田敏一)
■実家は楽器店 音楽あふれる日々
実はヒロさんと話すのは約33年ぶり2回目。前回はヒロさんがDJを務めていたラジオ関西(神戸市)の番組「缶・かん・ポップスフリーク」の電話参加クイズに当選したときだ。記者は“洋楽バカ”の大学生だった。
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ヒロさん「岡田さ~ん。では曲当てクイズ、頑張ってくださ~い」
岡田「が、頑張ります…」
そして、ある洋楽のイントロが流れた。昭和61年当時、全米でも大ヒット中で、日本のラジオでもひんぱんに流れていたのですぐ分かった。
岡田「(米歌手)ロビー・ネビルの「セ・ラ・ヴィ」です!」
ヒロさん「岡田さん、正解です! おめでとうございま~す。賞金は何に使いますか?」
岡田「もちろんLP(レコード)を買います!」
ヒロさん「岡田さんは、どんなジャンルの音楽がお好きですか?」
岡田「プログレ(=暗い曲調で知られる英国のプログレッシブ・ロックの略)です」
ヒロさん「岡田さん、友だちいませんね~」
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「俺、言いそうやわ、それ」と爆笑するヒロさん。いまだに忘れられないやり取りから、インタビューがスタートした。
大阪・千日前で生まれたヒロさん。「生家はレコードも売る楽器店。おまけに隣はパチンコ屋で、幼少期から、流行歌から洋楽、軍艦マーチに至るまで、日常に音楽があふれる日々を過ごしました」。そんななか、中学時代にラジオから流れてきたベンチャーズやビートルズの音楽と出会い、ロック音楽に目覚めた。ギターを手にしたのもこの頃だ。
その後、進学校で有名な大阪府立高津高校に進むが、勉強よりバンド活動に熱中。「MBS(毎日放送)の人気ラジオ番組『ヤングタウン』の公開録音で、素人バンドが出演するコーナーがあり、何度か主演した」ほどのギターの腕前だった。ところが「バンド活動に熱中し過ぎて成績は全学年約500人中、480番あたりをウロウロ」。それでも関西学院大学の商学部に進み、「関西大学の連中と3人組のハードロックバンドを組み、歌とドラムを担当しました。英バンド、クリームのドラマー、ジンジャー・ベイカーに憧れ、本気でプロを目指していました」。ライブもひんぱんに行った。多くの人の前で自分を表現したかった。その思いが後の人気DJ、ヒロ寺平の誕生につながっていく。