【北京=西見由章】国民のプライバシーが含まれるビッグデータや顔認証などの人工知能(AI)を利用して国民を統制・監視している中国当局が、これまで蓄積した技術を新型コロナウイルスの感染経路割り出しに活用している。
南京市当局は1月下旬、新型肺炎の感染者3人が過去に外出した際の詳細な移動経路を公表し、接触した可能性がある人に連絡を呼び掛けた。地下鉄の乗換駅も含めた詳細な経路やバスの乗降駅、スーパーや病院に滞在した時間も分単位でつきとめた。市当局は「ビッグデータを運用した」と説明する。
中国当局は治安維持のためにデジタル技術を活用。街中に設置された監視カメラと顔認証技術の情報に加えて、携帯電話の通話・位置情報、ライドシェアなど各種サービスの利用記録といったビッグデータを企業から収集し、個人の詳細な行動履歴を把握することが可能となっている。
国家衛生健康委員会の専門家チームメンバー、李蘭娟(り・らんえん)医師は先月下旬、「ビッグデータを利用して感染者の行動記録を追跡し、濃厚接触者を特定できる」と国営中央テレビの取材で語った。ある感染者は、感染拡大が深刻な湖北省武漢と自分は無関係と認識していたが、ビッグデータの分析により、武漢から来た3人以上の潜在患者と接触していたことが判明したという。
中国では、自分が利用した鉄道や航空機、バスなどの便に感染者が乗っていなかったかを確認できるアプリも複数公開されている。
検索サービスの百度(バイドゥ)はビッグデータを利用し、国内の都市間を移動する人の増減などを毎日グラフ化して公開。各地の当局が感染防止策に利用できるようにした。また感染の危険が高まる人口密集地をリアルタイムで表示する地図も公開した。