日本製鉄が大規模な合理化に乗り出す。2基の高炉を持つ呉製鉄所(広島県)を全面的に閉鎖するほか、和歌山製鉄所(和歌山県)でも高炉1基を休止する。
鉄鋼需要の低迷や設備の老朽化などを背景に過剰な生産能力を削減し、経営の効率化を進めることにより国際競争力を高める。高炉以外でも国内の生産体制を縮小することにしており、同社の合理化策としては過去最大の規模となる。
ただ、地域経済への影響は大きい。特に、拠点が廃止される呉市では、地域の雇用にも深刻な打撃を与えるのは必至である。日鉄は地元自治体と密接に連携して雇用対策に全力であたってほしい。政府の支援も欠かせない。
日本の鉄鋼業は、統合による経営規模の拡大で国際競争を乗り切ってきた。しかし、中国企業の能力増などで世界市場で日本の存在感は低下している。今後も国内の合理化は避けられないとみられており、業界全体で抜本的な構造改革に取り組む必要がある。
高炉の廃休止は呉と和歌山に加え、八幡製鉄所(福岡県)も対象とする。名古屋や大阪、兵庫などの工場でも生産設備を縮小する。同社は一連の合理化で生産能力を約1割削減し、効率化を通じて収益基盤の強化を目指す。
今回の合理化で希望退職は募集せず、配置転換で対応するという。3年半後に閉鎖予定の呉製鉄所では協力工場を含めて3千人以上が働いている。その取引先の多くは中小企業で、合計2万人近くの従業員がいるという。地域への影響をできるだけ抑えるため、雇用確保を優先してもらいたい。
それでも今回の生産体制の見直しで、同社の収益力が急回復できるかは不透明である。日本の鉄鋼生産能力は、業界各社が統合を繰り返す中で合理化が遅れ、その3割ほどが余剰とされる。業界他社を含め今後も生産体制の合理化は不可欠だ。これからも拠点集約などの動きが続くことになろう。
特に鉄鋼業は中国や韓国メーカーとの激しい競合が不可避で、高い付加価値のある製品にシフトするなどの取り組みが肝要だ。国際競争にさらされる日本の重厚長大産業に共通する課題といえる。
政府も生産効率を高め、温室効果ガスの排出を削減するような鉄鋼業の取り組みを積極的に支援しなければならない。