【シンガポール=森浩】アフガニスタンをめぐり、米国とイスラム原理主義勢力タリバンの間で和平合意が成立する一方、アフガン政府が苦しい立場に置かれている。ガニ大統領が「密室で決まった」として、タリバン捕虜の解放を拒否した結果、反発するタリバンは政府軍への攻撃を再開した。政府内の対立も不安要素で、和平合意の行方に影響が出かねない事態だ。
2月29日の米国とタリバンの和平合意では、政府の管理下にあるタリバン捕虜約5千人と、タリバン側にいる政府軍捕虜約1千人の解放が明記された。ところが、ガニ氏は3月1日の記者会見で合意内容に不快感を示し、「解放は約束していない。権限は政府にある」として応じない姿勢を示した。
この認識のずれは政府の苦しい立場を象徴するものともいえる。タリバンは政府を「傀儡(かいらい)政権」「カブール政権」と呼び正統性を認めておらず、米国との交渉への同席も拒んだ。カブール大のシャフラ・ファリド教授(政治学)は「捕虜解放はタリバンの強い要請を受け、米国が和平合意に盛り込んだもようだ」と解説。米国がアフガン側と細部を詰め切らないまま、解放に応じた可能性を示唆する。
ガニ氏が解放を拒否した背景には10日から始まる予定の政府とタリバンとの直接対話を控え、自らの存在感を示したい思惑もある。大統領選での敗北に反発し、独自の政権樹立を表明したアブドラ行政長官は地域勢力を巻き込んで支持を拡大。政府とは別の対タリバン交渉代表団結成を画策する。ガニ氏はアブドラ氏に主導権を握られることだけは避けたい局面だ。
タリバンは、和平合意に「武装解除」や「停戦」といった文言がない以上、米軍を過度に刺激しない限り、政府への圧力は継続するとみられる。和平合意の前提として米・政府軍との間で実施された「暴力の削減」は2月22日からの7日間で終了したとの認識だ。