東京・新宿で、東京都建設局第三建設事務所(以下、三建)が約30人の野宿者を道路工事を理由に強制的に立ち退かせた問題が波紋を広げている。渋谷や新宿の野宿者支援団体である「ねる会議」は当事者らと共に三建に対し抗議活動を続けており、現地では立ち退きを拒否し生活を継続する野宿者も残り、緊迫した状況が続いている。この一連の動きは、行政による人権軽視の姿勢と、脆弱な立場にある人々への配慮の欠如を浮き彫りにしている。
三建が立ち退きを通告したのは6月4日のことであった。道路の打ち替え工事を名目とし、6月17日までに荷物を撤去するよう警告書を配布。工事は来年2月まで続くことを告げた。現場を訪れた「ねる会議」のメンバーに対し、野宿者たちは「急に出ていけと言われてどうしたらいいのか」と不安な心情を吐露し、中にはストレスから体調を崩す者もいた。三建・新宿工区によると、工事は工程ごとに範囲を区切って行われるため、作業帯を避けて荷物や寝床を移動させれば工事自体は可能であったはずだ。しかし、野宿者排除の前面に立つ三建・管理課は、立ち退きの方針を一切変えなかった。結果として、多くの野宿者が意に反して寝床を畳み、都道を去ることを余儀なくされた。この背景には、これまで三建が野宿者に対し威圧的な態度を取り、法的根拠なく荷物を撤去・廃棄してきた「力による支配」が長く続いてきた経緯がある。野宿者たちの間には、「三建には従わざるを得ない」という諦めの感情が広がっていたのだ。しかし、三建の島川光司管理課長は、野宿者らが「自主的に協力した」「ご理解いただいた」と、事実と著しく異なる認識を語っている。立ち退かされた野宿者たちは、消え去ったわけではない。彼らの多くは現在、別の場所でさらに困難な生活を強いられている。雨露をしのげない者、荷物の多くを手放し身一つで過ごす者、移動先で新たな自治体から警告書を貼られる者もいる。三建によるこの立ち退き行為は、約30人の野宿者の生活基盤を根底から破壊したと言える。
東京都、対話による解決を拒否し強制排除を強行
6月18日、三建は警官を伴い現場に現れ、作業員らに指示して都道に残る荷物を次々と廃棄車両に積み込んだ。「ねる会議」からの抗議に対し、島川課長は「人権よりも道路に支障がないことが大事だ」と発言し、人権意識の欠如を露呈した。一部の荷物には6月24日を期限とした新たな警告書が貼付され、翌25日にも同様に荷物の撤去が強行された。何もなくなった都道には、通行を阻むかのようにバリケードとカラーコーンが設置された。
新宿の路上に設置されたバリケードとカラーコーン、野宿者排除後の風景を示す。
抵抗は続いている。ある野宿者は「こんなやり方はおかしい」と都道での生活を継続。その人物の荷物は、自らの身体を張った抗議により18日には撤去を免れたが、三建は25日にも高圧的に荷物をどかすよう迫り、7月2日を期限とする警告書を手渡した。しかし、当該場所で工事が始まるのは早くとも9月の予定であり、この野宿者本人は「工事には協力する」「工事が始まる前に移動する」とはっきり表明しており、平和的な調整は十分に可能であったはずだ。警告書の期限が明けた7月3日、三建は「ねる会議」の問い合わせに対し、「『ねる会議』とは平行線なので今後話はしない」と言い切り、現場には姿を見せなかった。建設局道路管理部監察指導課も、「この件は三建の事業なので『ねる会議』とは会わない」と面会を拒否。これにより、東京都は対話による解決の道を完全に閉ざしてしまった。立ち退きを強いられた当事者たちは、今も強い不安と緊張の中に置かれている。
この問題は、東京都の都市開発と公共空間管理における人権尊重のあり方を問い直すものである。道路工事という名目のもとで行われた強制的な立ち退きは、単なる荷物の移動にとどまらず、社会的弱者の生活と尊厳を脅かす深刻な人権問題として認識されるべきだ。東京都が対話を拒否し、力による排除を続ける限り、野宿者の不安と苦難は解消されず、より一層の社会的な分断を招くことになるだろう。
参考:
金曜日 (https://news.yahoo.co.jp/articles/ab350fa36dd70223c8f8cd9ca4dfd58768a5b440)