【カイロ=佐藤貴生】エジプトのマドブリ首相は16日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、19日から31日まで航空便の運航を停止すると発表した。同国政府は15日から学校や大学を2週間、休校にするなど急ピッチで防止策を打ち出しているが、国庫を支える観光業への影響の懸念などから対応が遅れ、感染がさらに広がるとの見方も出ている。
マドブリ氏は現在、国内にいる旅行者は日程通りに過ごせるとしており、対応の詳細は不明。運航停止期間中はホテルや観光地の消毒を行うとしている。
エジプトでは5日、南部アスワンからルクソールに到着した観光クルーズ船に乗っていた45人からウイルスの陽性反応が出た。古代遺跡を回りながらナイル川を下るもので、日本や欧米の観光客にも人気がある。
ロイター通信によると、エジプトの観光相や保健相らは8日、ルクソールを訪れて「旅行者は誰も来ることを恐れていない」「大げさに反応しないように」などと訴えていた。
しかし、2月下旬にナイル川クルーズに参加した日本人旅行者が帰国した3月初めには感染が確認されていた。クルーズ船の集団感染判明までのエジプトの感染者は3人だったが、16日現在で感染者は150人、3人が死亡している。
英紙ガーディアン(電子版)は15日、エジプトでは感染が判明して隔離されるのを嫌う人が多く、情報公開も制限されているとした上で、専門家らは対応が遅すぎで「感染者は公表されている数より多い」とみているとの記事を掲載した。
エジプトはナイル川クルーズのほか世界遺産に登録されているギザの「三大ピラミッド」もあり、観光は貴重な収入源。民主化要求デモが広がった2011年以降、激減した外国人の客足が戻り、昨年度は約130億ドル(約1兆4千億円)と記録的な額に達した。
しかし、新型コロナの感染拡大で客足が遠のき、観光地の土産物店などの稼ぎは急落している。アスワンのクルーズ船の会社の社員は電話取材に、「船は出航していない。収入が減り、生活も難しくなるだろう」と話した。