東京五輪・パラリンピックが延期される見通しが強まり、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた日本経済が一層打撃を受けそうだ。インフラ整備を中心に経済効果の8割は既に創出されたものの、開催年に期待された3兆円超は宙に浮くとの試算もある。訪日外国人客を当て込んだ投資の不良債権化で金融システムが動揺する事態になれば、景気がさらに下押しされかねない。(田辺裕晶)
「まさに“泣きっ面に蜂”だ」。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、新型コロナで自粛経済が広がる中での五輪延期について、こう指摘する。
永浜氏の試算では、五輪開催による直近3年間の経済波及効果は17兆円。競技場などの五輪関連施設や周辺の再開発を含むインフラ整備で、昨年までに13兆8千億円の効果が既に出現している。開催年の今年は、訪日客の増加や関連需要の盛り上がりなどで、3兆2千億円の上積みが期待されていた。
大会の延期で開催年の経済効果は先送りになる。また、景気浮揚の切り札だった東京五輪の延期は消費意欲の減退を加速させ、景気後退の瀬戸際にある日本経済をダメ押ししかねない。
さらに懸念されるのが、ホテルや商業施設など、訪日客の需要を期待した民間設備投資の不良債権化だ。
総合免税店のラオックスは新型コロナの感染拡大で北海道や沖縄などの店舗を既に閉店した。五輪延期で日本に「感染国」のレッテルが貼られ訪日客の回復が遅れれば、こうした動きが国内でさらに広がるとの指摘もある。
五輪に向けた誇大な民間投資は、超低金利による利ざや(貸出金利と預金金利の差)縮小に苦しむ地方銀行が主な貸し手だ。多額の貸し倒れが発生すれば経営難に陥りかねない。政府は今後編成する追加の経済対策で、景気刺激策だけでなく、地銀の財政支援策も検討を迫られる可能性がある。