神戸マンション女性殺害事件:面識なき50分間の尾行と「機会犯」の心理

神戸市内のマンションで発生した24歳女性殺害事件は、容疑者が被害者と「全く知らない人です」と供述しているにもかかわらず、約50分間にもわたり女性を執拗に尾行していたとみられ、社会に大きな衝撃を与えています。なぜ面識のない人物を長期間にわたって付きまとい、凶行に及んだのか。この事件の背景を探るべく、犯罪心理学を専門とする関西国際大学の中山誠教授に、その心理と犯行の特徴について詳細な分析を伺いました。中山教授は、今回の事件が「計画性のない“機会犯”」である可能性を指摘し、その独特な心理構造を解説しています。

神戸市中央区のマンションで発生した女性殺害事件の現場周辺をイメージさせる画像。神戸市中央区のマンションで発生した女性殺害事件の現場周辺をイメージさせる画像。

容疑者の詳細な足取りと事件の経緯

今回の事件における容疑者の行動は、その計画性の有無を読み解く上で極めて重要です。警察の捜査により明らかになった容疑者の足取りは以下の通りです。

  • 20日午後6時半ごろ: 被害女性の退勤直後から、容疑者は尾行を開始したとみられています。この付きまとい行為は50分以上に及んだとされています。
  • 同日午後7時20分ごろ: 神戸市中央区のマンションのエレベーター内で、容疑者は女性をナイフで複数回刺し、殺害に及んだとされます。犯行後、容疑者は新幹線で東京方面へ逃走したとみられています。
  • 22日: 東京都奥多摩町において、殺人の疑いで逮捕されました。

この一連の行動から、容疑者が犯行に至るまでの心理的推移や、その場の状況がどのように影響したのかが分析の焦点となります。

「計画性のない“機会犯”」とは何か

中山誠教授は、容疑者の動きを精査し、「計画性のない“機会犯”ではないか」との見解を示しています。これは、特定の状況や偶然生じた機会に乗じて犯罪行為に及ぶケースを指し、あらかじめ特定の人物を狙って綿密に計画された犯行とは一線を画します。

中山誠教授は以下のように説明します。「計画的な犯行と対比されるのが、今回のような『犯行機会犯』という呼び方です。これは、特定の状況、あるいはたまたま生じた機会に乗じて、その結果として犯罪行為に及んでしまうというものです。今回の事件も、あらかじめこの女性を狙っての計画的な犯行ではなかったと推測しています。当然、面識もなかったでしょう。」

このような「機会犯」の特性は、犯人の行動パターンや動機を理解する上で重要な手掛かりとなります。

エレベーター内での犯行に至った心理的背景

特に注目されるのは、エレベーター内という密室での犯行です。中山教授は、この状況が容疑者にとって「予想外の出来事」を引き起こした可能性を指摘します。

中山誠教授はさらに深掘りして解説します。「一番注目したいのは、エレベーターの中での犯行という点です。これが非常に中途半端な選択であり、時間帯も午後7時過ぎで人通りも多く、目撃される可能性が高い。また、エレベーター内は誰でも入って来られる状況です。なぜここで犯行に及んだのかが焦点となりますが、私の予測では、容疑者はおそらくオートロックをかいくぐってマンション内に侵入したものの、エレベーター内で被害者が何らかの異変に気づいた、あるいは危険を感じて助けを呼ぼうとした、自ら逃げようとしたなど、容疑者にとって『予想外のことが起こってしまった』のではないでしょうか。」

こうした偶発的な状況が、容疑者の中に犯意を生じさせ、最終的に刃物を使って殺害に至らせたのではないか、と中山教授は考察しています。計画性のない犯行が、予期せぬ展開によって凶悪な結果を招く可能性があることを示唆しています。

結論

神戸市で起きたマンション女性殺害事件は、面識のない人物が50分間も尾行し、最終的に密室であるエレベーター内で凶行に及んだという点で、その異常性が際立っています。犯罪心理学の専門家である中山誠教授の分析は、今回の事件が「計画性のない“機会犯”」である可能性を示し、偶発的な状況や被害者の抵抗が、容疑者の犯意を決定づけたという見解を提示しました。この分析は、予期せぬ状況が犯罪に発展するリスクや、日常生活における防犯意識の重要性を改めて浮き彫りにしています。


参考文献: