3月に入り、今春開始とされてきた日本国内の5G(第5世代移動通信システム)サービスについて、楽天を除く携帯キャリア各社が料金プランや対応機種を発表した。NTTドコモが3月25日から、au(KDDI)が26日、ソフトバンクが27日から5Gサービスの提供を始める。
既存の4G回線に比べて「高速」「低遅延」などが売りといわれる5G。本記事では、各社の発表内容をおさらいしつつ、5Gの現状での魅力を論じてみたい。
料金プランは「容量無制限」化 しかしやや拍子抜けの面も
5Gには以前から「データ使用量無制限」の期待が大きいサービスで、先行する海外では実際に米Verizonが容量無制限のプランを提供している。日本国内では、auが完全に容量無制限、ドコモとソフトバンクが限定的な容量無制限プランの提供となった。各社プランの概要を見ていこう。
ドコモの「5Gギガホ」は月間データ容量を100GBとし、4Gスマートフォン向けのギガホ(キャンペーン適用前)と比較すると3倍以上の容量になった。その上で、当面はデータ量が無制限になるキャンペーンを実施する。
auは既に4G向けに提供しているデータ容量無制限の「MAX」を冠するプランを5G向けにも展開。これに加えて、「Netflix」や「Apple Music」「YouTube Premium」、さらに同社とテレビ朝日が共同出資する「TELASA」といった有料の各動画配信サービスをバンドルした料金プラン「データMAX 5G ALL STARパック」を用意することで、5Gの「高速」「大容量」というメリットを全面に打ち出している。
ソフトバンクは4G向けプラン「メリハリプラン」を5Gスマートフォン向けにも展開。同プランはデータ容量こそ50GBと他社に比べ少ないものの、主要なSNSや動画配信サービスの利用がカウントフリーとなる。カウントフリー対象の動画を視聴する分にはauと同じように事実上の容量無制限といっていいだろう。
まとめると、ドコモは当面はキャンペーンで容量無制限、auは注釈なしで容量無制限、ソフトバンクは月間50GBの制限があるがカウントフリー対象のサービスなら容量無制限、といった具合だ。ただ、スマホをWi-Fiルーターとして利用する「テザリング」機能について制限がないのはドコモのみで、auは30GBもしくは80GBの制限を設け、ソフトバンクはカウントフリーの対象外としている。
筆者としては事前のうわさ通り、各社が完全に容量無制限のプランを出してくるかと予想していたため、各社「無制限的」ではありつつもそれぞれ注釈が付くという状況には少し拍子抜けしたというのが本音だ。
当初の5G対応エリアは限定的
これまでの移動通信システムを振り返ると、基地局の建設数の関係からサービス開始当初に利用できるエリアは狭いもので、5Gになってもそれは例外ではない。
例として、auとソフトバンクのエリアマップを見てみよう。auはピンク色の丸のように見える場所が5Gエリア(4月末時点)で、ソフトバンクも紫がかったピンクが4月末時点、黄色が今夏以降にエリア化予定の場所と、5Gが利用できる場所はかなり限られている。
ドコモは5Gのエリアマップについては公開しておらず、スタジアム・オリンピック関連施設や交通・観光・商業施設、ドコモショップなど、5G基地局を設置した約150カ所の施設を紹介している。
もちろん、5G対応スマートフォンは従来の4Gのエリアでも利用できるため「買い換えたらエリアが狭くて全く繋がらない」といったことはないが、5Gの真の実力を体感できるのは、まだ先になると考えておくといいだろう。
このようにエリアが狭いため、5Gを契約したとしてもほとんどのシーンでは当面4Gでの通信になる。4Gは5Gに比べ、帯域幅が狭いことから5Gほどの大容量通信はさばけない。各社が完全な容量無制限のプランを提供しないのは、5Gエリアの狭さが理由かもしれない。
5G対応スマホのほとんどは高スペック高価格 しかし「iPhone」は不在
5Gを利用するには、対応したスマートフォンもしくはモバイルルーターが必要だ。
NTTドコモは東京オリンピックモデルを除くと6機種(+モバイルルーター1機種)で、auは7機種、ソフトバンクは4機種を発表したが、その中でも、3月末の5Gサービス開始時に発売するのは各社2機種ほど。
その他の機種は4月から今夏にかけて順次販売する予定だが、現状は選択肢がかなり限られている。
また、今回発表になった機種の多くは販売価格が10万円前後で、Androidスマートフォンのハイエンドモデルが中心だ(auとソフトバンクはミドルレンジの5Gスマホも一部取り扱う)。
現在の日本市場では3~4万円のエントリーモデルが主な売れ筋で、5G対応という特徴があるとはいえ、ハイエンドで高価格のAndroidスマホを選ぶユーザーがどれだけいるのかは読みにくい。むしろ、それなりにコストもかかる大容量プランを積極的に使うユーザーともなれば、5G対応のiPhoneを待ちたいという声も多いのではないだろうか。
積極的に5Gを試してみたいと考えるアーリーアダプターや、ちょうど買い替え時期のハイエンドモデル志向のユーザー以外を考えると、現在のところ本体価格を大幅に値引いて販売する施策もない(なおドコモは最大2万2000円を割り引く施策を行っている)ため、当面は5Gユーザー数の増加も時間がかかると考えられる。
5G対応iPhoneの発売があればある程度普及は見込めそうだが、それも新型コロナウイルス感染症で中国の工場などサプライチェーンに影響が出ていることを考えると、いつ発表があるのかは先行き不透明な状況だ。
5G移行はこれまでより楽だがしばらくは様子見が吉
サービス発表直後のため当たり前といえば当たり前だが、日本国内の5Gサービスは、開始時点での提供エリアや機種ラインアップを見るとまだまだ限定的だ。エリアの拡大や対応機種の拡充には時間がかかるだろう。
しかし過去を振り返ると、2Gから3Gへの移行時には互換がないために利用可能エリアに悩まされ、4Gへの移行時にはスマートフォンのスペックやOSが成熟していなかったという悩みがあったが、5Gへの移行ではこうしたことに困ることはなさそうだ。
そういう意味では、5G対応基地局数や対応機種さえ増えれば、これまでよりも移行しやすい環境だとはいえる。
現時点で5Gに飛びつく必要はないが、自分の行動圏が5Gエリアに入ったり、好みの5G対応機種が出たりしたタイミングで移行するのが良さそうだ。(ITmedia News)