新型コロナウイルスに起因したハラスメント(嫌がらせ)行為が横行している。身近で感染者が出たため中傷を受けたり、花粉症やぜんそくの人がせきをしただけでトラブルになったり。「ばいきん」のような扱いに多くの人が悲鳴を上げる。感染拡大を理由にした人員削減や内定取り消しといった労働にかかわる問題も切実だ。(桑村朋)
「ばいきん扱いされた」
「引っ越し業者からキャンセルされた」
「タクシーの乗車拒否にあった」
医師と看護師の感染が判明した北播磨総合医療センター(兵庫県小野市)。外来診療や新規入院を停止しているものの、センターの患者や職員、その家族に対する中傷や風評被害が相次いでいるという。
センターによると、「PCR検査を受けなければ出勤停止」と勤務先から告げられた職員の家族もいた。「ばいきん扱いされた人もいる。ウイルスへの恐怖も理解しているが、職員らは地域医療を守るために懸命に努力している。よく考えてほしい」と担当者。
同センターはホームページに「新型コロナウイルス感染症の影響による誹謗(ひぼう)中傷・風評被害について」とするコメントを掲載。一部被害についてはすでに行政に相談しているという。
偏見や思い込みに基づくハラスメント。新型コロナウイルスの感染拡大以降、SNSでは世間の冷たい目に悩む投稿も目立つ。
《花粉症のせきなのに怒られた》《感染者が出た町から通勤しているだけで感染を疑われた》。一連の行為を「コロナ・ハラスメント」と呼ぶ向きもある。
実際のトラブルもあった。福岡市営地下鉄では2月、マスクを着用せずせきをしたことをめぐり、隣同士に座っていた男性2人が言い合いになり、電車の運行に遅れが生じた。
出勤停止を強要
労働者の切実な相談も増えている。連合大阪(大阪市)では3月以降、例年の数倍にあたる電話相談が寄せられている。
新型コロナに関連した相談が増えているためで、異常なしと診断されたのに上司から「出勤するな」と言われた▽「有給休暇を取ると違法」と指摘された▽病院と掛け持ち勤務する保育士が「当面勤務を控えて」と告げられた-などのケースがあった。
中でも目立ったのは派遣やパートなど非正規雇用者の相談。連合大阪の香川功副事務局長は「勝手に感染と疑い、出勤停止などを命じるのはあり得ない。新型コロナを理由にすれば何を言っても良いという風潮は非常に危険だ」と話した。
労働者も知識を
会社には労働者の安全配慮義務があり、ウイルス蔓延(まんえん)を防ぐ義務がある。同時に、ハラスメントやそれに近い行為から労働者を守り、誠実に対応する姿勢も求められる。
オンライン労働組合「みんなのユニオン」法律顧問の岡野武志弁護士によると、新型コロナの感染拡大を理由にした人員削減や内定取り消しの事例はすでに出ているという。
こうした会社側の判断が違法かどうかの線引きは難しいが、岡野氏は、その陰で違法な解雇などが横行する恐れがあるとも指摘。「労働者の側も日頃からネットなどで労働問題の情報を収集し、新型コロナに起因したハラスメントで損をしないよう基本知識をつけることが重要だ」としている。