東日本大震災の津波で全電源喪失に陥った福島第一原子力発電所。絶望の現場で戦い抜いた人たちを描き、3月に封切られた映画『Fukushima50』(フクシマフィフティ)がヒット中だ。当直長役を主演した俳優、佐藤浩市さん(59)に、生と死が重なり合う壮絶なドラマをどう演じたかを聞いた。2013年に死去した父、三國連太郎さんへの思い、供養についても語ってもらった。(終活読本『ソナエ』春号から抜粋。ご購入はこちらへ)
演者同士の「血」を感じる
--昨年(2019年)にお父さま、三國連太郎さんの七回忌法要を行ったそうですね
正直言って、準備は結構大変でした。昔の残っている映像のビデオを見て、編集しながら、どなたにあいさつしてもらうかとか。
いざやってみると、みなさんが「非常に良い会だった」とおっしゃって、終わってからそのまま飲みに行かれる方とかね。さっと散会するんじゃなく、話し足りなかったということじゃないですか。「良い会だったんだな。やってよかったな」と思いました。
--三國連太郎さんは散骨を希望しておられたそうですが、長男の佐藤さんはあえてその意に反した、と伺っています
親の希望として「そうしてあげればいいじゃないか」というのは、真っ当な普通の意見としてはあります。
でも、残った者として、散骨はできなかった。骨は自分が、うちの息子(俳優の寛一郎さん)もそうだけど、行けるところに置いておくと。正直、三國と長く時間を過ごしたこともなかったですしね。
三國の故郷、伊豆の松崎(静岡県)というところのお寺に、納骨させていただいています。前からある佐藤家のお墓です。
「まあ、お骨くらいはこちらで、そうさせてくれや、おやじ」っていう気持ちですよね。うちには仏壇もありますよ。「俺の好きなようにさせろ」っていう思いですかね。
--お父さまは満足しているでしょうか
納得してくれよ。あんた好きなことやって生きてきたんだから、最後くらい俺の言うことを聞いたっていいじゃないか、っていう気分ですね。
一昨年に『楽園』っていう映画を撮影しました。亡き妻を分骨した土地を荒らされる場面があって、荒らされた土地の土を食べるということを、監督に話してやらせてもらいました。
たまたま七回忌の準備でおやじの昔のフィルムを見ていたら、『襤褸(らんる)の旗』(1974年、足尾鉱毒事件を告発した田中正造をテーマにした映画)でおやじが土を食ってるんですよね。
中1くらいのときに観ていたのですが、覚えていてそれをやろうと思ったわけじゃなくて、そうか、おやじ『襤褸の旗』で土食ってたなあ、俺も土食っちまったよ、っていう不可思議さをね。
まねしたわけではなく、そうしたかったからやったということです。不思議なもので、それが演者なのか。演者同士の血なのかと。
逃げられない「責任」 共有する仲間の重み
--映画『Fukushima50』(フクシマフィフティ)では震災当日、福島第一原発の1・2号機の制御を指揮する当直長・伊崎利夫を演じ、爆発の危機も差し迫った原子炉に決死の覚悟で挑み続けました。実際の事故で死に直面した方たちの状況を演じるのは大変だったのでは
恐怖や責任など、現実にいろいろなものを抱え込んだ人たちの話でした。伊崎は地元の出身。「ヒーロー」というより、最前線から逃げるわけにはいかない人間ですね。