新型コロナウイルスの感染拡大がとまらない欧米で韓国やシンガポール、台湾の防疫対策に関心が集まっている。都市封鎖といった強硬な措置を取らずに感染者の急増を押さえ込んできたからだ。過去の感染症での失敗を教訓に、スピードを最優先した取り組みを次々打ち出したことに秘訣(ひけつ)があるようだ。
“攻撃的”検査
「韓国の対応に学びたい。経験を共有してくれれば、大いに役立つ」
韓国大統領府によると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と2日に電話会談した南米コロンビアのドゥケ大統領はこう新型コロナ対策での支援を求めた。文氏は2月下旬以降、16カ国首脳と電話会談したが、韓国を防疫のモデルと指摘する声が多いという。
イタリアの科学者ら約150人は2日、「韓国のように広範囲で“攻撃的な”検査などで国家システムを停止させずにウイルスを克服すべきだ」と主張する声明を伊紙に掲載した。
感染拡大が収まらない欧米各国で特に注目されているのが4~6時間で感染の有無を判定できる韓国製診断キットだ。韓国にキットなどの輸出や支援を求める国は100カ国を超える。
韓国メディアによると、診断キットを製造する企業は1月上旬から開発に着手した。韓国内でまだ1人の感染者も出ていなかった時期だ。これを「緊急使用承認制」が後押しした。1年半かかる許可審査を感染症流行時には2週間に短縮する制度で、対応が後手に回ったと批判された2015年の中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大の経験から17年に導入された。
この診断キットを武器に韓国では、速やかな検査と感染者の移動経路の徹底追跡を進めていった。4日現在、既に45万人以上が検査を受けた。感染者は1万人以上だが、完治者も6千人を超え、感染者の増加は目に見えて鈍化している。
“攻めの検診”も特徴だ。感染が急拡大した南東部の大邱(テグ)地域では、検査を担う公衆保健医らのチームが感染が疑われる人の自宅などに自ら出向く移動検診も積極的に行われた。
車に乗ったまま、検査が受けられる「ドライブスルー式」が話題となり、他の国でも導入が相次いでいるが、歩いて通過し、5分ほどで検査を済ませられる「ウオークスルー式」も登場。ソウルでは3日、競技場の駐車場にテントやコンテナを並べ、大規模なウォークスルー式診療所が開設された。韓国は大半の国・地域に対して入国禁止を取っていないが、海外からの入国者を対象に1日最大千人の検査が可能だという。
大邱などでは迅速な検査で感染者が次々確認されたことで、病床不足が問題となった。病床に空きがなく自宅に待機していた患者の死亡も起きた。そこであみ出されたのが、公的や民間の研修施設を一部改装して「生活治療センター」と称し、軽症者や症状がない感染者を受け入れる仕組みだ。症状によって患者を選別し、入院していた軽症者らをこのセンターに移すことで、優先的に治療が必要な人のための病床を確保することができたのだ。
やみくもに検査して感染者が急増すれば、医療崩壊につながるとの懸念も指摘される中、「トリアージ」と呼ばれる重症度に応じた患者の選別がますます重要となっている。(ソウル 桜井紀雄)