【世界のかたち、日本のかたち】日本の真価問う「戦争」 大阪大教授・坂本一哉





建設が進むメキシコ国境の壁=2019年11月7日、米テキサス州ドナ(AP)

 米国の外交史家、J・L・ギャディスは、冷戦の起源を1950(昭和25)年6月に勃発した朝鮮戦争に求めている。この戦争を契機に米国は国防予算を4倍に拡大。第二次世界大戦の戦後処理をめぐって生じていた、ソ連(当時)との対立を本格的なものにしていった。

 その朝鮮戦争の勃発から70年になる今年、中国武漢市で発生した新型コロナウイルスと人類との戦いは、数百万人の犠牲者を出した70年前の戦争同様、世界の歴史を画する大「戦争」になると思われる。

 世界はこの「戦争」の勃発以前からすでに、新しい時代に入っていたようである。3年前に登場した米トランプ大統領が、グローバリズムを基調にした「冷戦後」の米国政治外交政策を厳しく批判し、それからの離脱を進めてきたからである。この「戦争」はその動きを加速し、朝鮮戦争が冷戦の到来を確定したように、ポスト「冷戦後」の新時代の到来を確定する「戦争」になるだろう。

 トランプ大統領のグローバリズム批判はこれまで、それが米国に不公平な経済的結果をもたらすという観点からの批判が主だった。だがこの「戦争」は、国民の安全という観点からも、大統領のグローバリズム批判を正当化するものになろう。

 人、モノ、カネが国境を越えて自由に動くことには、他国で発生した病気も国境を容易に越えて国民の健康を脅かすリスクがある。またモノの自由な移動を前提にして、生産の他国依存が過ぎれば、いざというときに国民の生活を守れなくなるリスクが生じる。

 米国はすでに、日本や欧州諸国とともに、世界貿易は、ただ自由というだけでなく、「自由で公正」なものでなければならないとの主張を強めている。だがこれからは、「自由で公正」に加え、「安全」な貿易のルールづくりも求められよう。むろんそのルールは、いまの世界経済の苦境をさらに悪化させる保護貿易を許すようなルールであってはならない。

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