【シンガポール=森浩】新型コロナウイルスの感染拡大による旅客需要の低迷で、世界の航空会社が苦境に陥っている。多くの国はロックダウン(都市封鎖)後の経済活動再開を模索するが、国境解放や移動制限解除への動きはまだ鈍い。航空会社はリストラや政府の支援で生き残りを図ろうとしているが、コロナ禍収束が見通せないだけに業界の視界不良は続きそうだ。
■最も深刻な危機
「航空業界はこれまでに直面した中で最も深刻な危機にある」。国際航空運送協会(IATA)のジュニアック事務総長は4月上旬の声明で、新型コロナ流行と都市封鎖に伴う需要減に危機感をあらわにした。
国際民間航空機関(ICAO)は、1~9月の世界の航空旅客数は前年同期比で最大12億人減少し、業界全体で2530億ドル(約27兆円)の収入が失われる可能性があると見積もった。
既に4月にはヴァージン・オーストラリア(豪州)が、5月10日にはアビアンカ航空(コロンビア)が経営破綻。さらに19日には、世界の主要大手で初めてタイ国際航空(タイ)が会社更生手続きの申請を行うことが決まった。天下り幹部や労動組合がリストラに抵抗するなど高コスト体質が経営を圧迫していた中、新型コロナ流行により全便の運航が停止されたことで資金繰りが急速に悪化していた。
アジアでは、シンガポール航空が14日発表した2020年3月期の最終損益は2億1200万シンガポールドル(約160億円)の赤字で、1972年の設立以来初の最終赤字となった。国土が狭く、国内線がないという特殊事情もあり、海外との渡航制限が経営を直撃。営業利益は前年比約94%も落ち込んだ。