ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャが暮らす隣国バングラデシュの難民キャンプで、新型コロナウイルスの感染者が確認された。
南東部コックスバザールにあるキャンプには、2017年8月以降、ロヒンギャ武装勢力とミャンマー治安部隊との衝突を逃れてきた約74万人を含む100万人以上がいる。
キャンプは過密状態で、難民は竹とビニールシートで作った住まいに身を寄せ合い、「世界で最も感染リスクが高い」(国連)。
安倍晋三首相は緊急事態宣言の解除にあたり、「世界的な感染拡大に歯止めがかからない限り、真の収束はない」と述べた。常にそうした認識を持つ必要がある。
特に難民キャンプや紛争地、途上国の貧民街、外国人労働者ら、感染症に無防備な土地、人々に目を向けることが重要だ。ロヒンギャ難民はその典型例である。
こうした場で感染が広がれば多くの命が危険にさらされる。再拡散を引き起こす恐れもある。世界的な感染対策から置き去りにされることがあってはならない。
コックスバザールでは、隔離のためのベッド210床が用意されるというが心もとない。難民キャンプ周辺のバングラデシュ人にも同様のリスクがある。夏にかけてモンスーンの季節を迎え、水害が重なる懸念も大きい。
問題なのは、ロヒンギャ難民が世界の関心を集めたにもかかわらず、その状況に改善がみえないことだ。難民はミャンマーでの迫害を恐れている。政府間合意があるのに帰還は一向に実現しない。
そんな中で起きたコロナ禍である。ロヒンギャ難民を乗せた船が着岸を拒否され、沖合で漂流するケースも相次いだ。
折しも、ミャンマー側のジェノサイド(集団虐殺)があったかどうかが国際司法裁判所(ICJ)で争われている。難民の帰還後の安全はミャンマー政府が保証すべきであり、その責任は重い。
日本政府は、河野太郎氏が外相として難民キャンプや国境のミャンマー側を訪れたほか、キャンプの水・衛生改善、ミャンマー側の受け入れ環境支援などで、この問題に積極的に関与してきた。
難民キャンプでコロナ対策にあたる国際機関、援助団体への支援はもちろん、難民の帰還実現に向け、ミャンマー政府に働きかけを強めるべきだ。