【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、金与正(ヨジョン)党第1副部長は4日に発表した談話で、韓国内の脱北者らが軍事境界線付近から正恩氏を批判するビラを散布したと非難、韓国政府が再発防止策を取らなければ、南北軍事合意の破棄もあり得ると警告した。朝鮮中央通信が報じた。
談話は、南北経済協力事業の開城(ケソン)工業団地の完全撤去や共同連絡事務所の閉鎖の可能性も示唆した。与正氏名で談話が出されるのは3月以来、3回目。正恩氏の“代弁者”として、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が信頼を置く与正氏を前面に出すことで、文政権を揺さぶる効果を高める狙いもあるとみられる。
談話は、脱北者らを「人の価値もないくず」とけなした上で、北朝鮮で正恩氏を指す「最高尊厳まで傷つけ、核問題に言いがかりをつけて無礼に振る舞った」と非難。2018年9月の南北首脳会談の際に交わした軍事合意で、軍事境界線一帯でビラ散布を含む全ての敵対行為を禁じたはずだと主張し、ビラ散布を「表現の自由などとして放置するなら、南朝鮮(韓国)当局は遠からず、最悪の局面まで見込まなければならないだろう」と警告した。
韓国の脱北者団体は5月末、核抑止力強化を打ち出した正恩氏を「偽善者」と呼び捨てで非難するビラ50万枚などを大型風船で北朝鮮に向けて散布していた。今回の談話は、こうしたビラが北朝鮮国内に影響を与えている裏返しともいえそうだ。