中国の習近平国家主席の国賓来日をめぐる政府の対応は、新型コロナウイルスの影響で3月に延期を決めた後、目に見えて変化してきた。感染拡大の収束が見通せない上、香港への「国家安全法」導入などをめぐる国内外の対中批判は強く、国賓来日が極めて難しい環境にあることは、最近の閣僚の発言からもがうかがえた。
「習氏と手を携えて日中新時代を切り開きたい」
昨年6月、大阪市内で開いた日中首脳会談で、安倍晋三首相は習氏に国賓としての来日を要請し、こう期待感を込めた。
ただ、その後も中国公船による尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での挑発行為はなくならず、昨秋には中国当局が反スパイ法違反などの容疑で北海道大の男性教授を拘束した。
日本国内では国賓訪日への反発が強まったが、安倍首相は昨年12月の日中首脳会談で、習氏に「国賓訪日を極めて重視している」と述べ、引き続き来日の実現を目指す方針を堅持した。日中間の重要案件は「ハイレベルの対話でしか動かせない」(外務省幹部)との考えがあったとみられる。
だが、新型コロナが世界で猛威を振るった今春以降は、政府の慎重な姿勢が目立つようになった。
国賓来日の延期を発表した3月5日、「双方の都合のよい時期に行うことで改めて調整していく」(茂木敏充外相)としていた政府の見解は、5月28日には「関連の状況全体を見ながら、日中間で意思疎通を続けていきたい」(菅義偉官房長官)に変化した。
さらに茂木氏は今月3日、「いま具体的な日程調整をする段階にない」と述べ、日程の調整すら着手していないことを明かした。
政府が慎重姿勢に転じたのは、新型コロナだけでなく、香港情勢をめぐり国際社会が中国に厳しい目を向けたことも一因だ。トランプ米大統領は9月への延期を表明した先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で中国問題を主要議題にすえる可能性もある。
政府は経済的なつながりも踏まえ、引き続き中国との関係を重視するが、現時点では、基本的価値観を共有する国との結束を優先させる。(力武崇樹)