昭和52年11月に北朝鮮に拉致された横田めぐみさん(55)=拉致当時(13)=の父で、5日に87歳で亡くなった拉致被害者家族会初代代表の横田滋さんの葬儀が8日午後、川崎市の「中野島キリスト教会」で執り行われた。参列者らによると、妻の早紀江さん(84)は「お父さんは安らかに天国に行きました」と思いを語り、生前の支えに謝意を示した。
葬儀には滋さんの双子の息子、拓也さん(51)と哲也さん(51)ら遺族、共に救出運動に取り組んだ拉致被害者家族、支援者ら計約50人が参列した。
「苦しまず、天国に旅立った」。早紀江さんは参列者へのあいさつで、臨終の様子をこう振り返ったという。ベッドに横たわる滋さんの耳元で「天国で待っていて。私も行くから忘れないで」と叫ぶと、うっすら開けた目を潤ませ、静かに息を引き取ったという。
また、早紀江さんは「しばらく顔が見られなくなることがさびしいが、天国でまた会えると思う」とも話したという。滋さんは平成29年、早紀江さんが礼拝する同教会を通じキリスト教の洗礼を受けていた。
葬儀に参列した松木薫さん(66)=拉致当時(26)=の弟、信宏さん(47)は「これだけ頑張った滋さんにめぐみさんを再会させられなかったのは敗北。政府は完敗を招かないよう、重く受け止めてほしい。めぐみさんを助ける一心で、怒りに任せず、温かい笑顔で、政治や外交もからむ複雑な拉致問題に立ち向かった姿を忘れないようにしたい」と話した。
平成14年に帰国した拉致被害者、地村富貴恵さん(65)の兄で、家族会副代表の浜本七郎さん(68)は「横田さんが一生懸命訴えたから政府が国民目線で動くようになった。政府には『実行と実利』を求めたい。行動を起こし、家族会が求める全拉致被害者の即時一括帰国という利益をもたらしてほしい」と訴えた。
早紀江さんら遺族は式場の様子を撮影した写真を救う会を通じて公開。十字架の前に設けられた祭壇の周りには、たくさんの花が手向けられ、おだやかにほほ笑む滋さんの遺影が置かれた。