【北京=西見由章】中国海警局の巡視船が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の周辺海域で活動を活発化させている背景には、圧力を徐々にエスカレートさせて日本の実効支配を崩すという中国側の一貫した長期戦略がある。島嶼(とうしょ)支配のために海警と海軍の“融合”も着々と進む。米国との新冷戦が強まる中で習近平指導部は対日接近を図っているが、尖閣をめぐり中国側が配慮を示す可能性は極めて低い。
中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会は4月、「人民武装警察法」改正案の審議を始めた。2018年に海警が国家海洋局から人民武装警察部隊(武警)に編入され、最高軍事機関である中央軍事委員会の指揮下に入ったことを受け、武警自体の任務として海上の権益保護や法執行を明記した。
改正案は武警が「戦時」において、人民解放軍の地域別指揮機関である5つの戦区か、中央軍事委から指揮を受けると規定。戦時の任務の内容には触れていないが、尖閣周辺で海警が東部戦区の海軍(東海艦隊)と共同作戦を行うことも可能になる。また平時の訓練や演習においても同様の指揮を受けるとした。
日本の中国軍事研究者は「中国は海警と海軍の連携を強める方向で組織や指揮系統の改変を行ってきた」と指摘。両者が作戦レベルで合同訓練を行うようになれば、尖閣周辺の状況が変わる可能性もあると分析する。
中国側が尖閣周辺や南シナ海で海洋進出の動きを強めているのは、新型コロナウイルスへの対応に追われる関係国の反応を試している側面もある。北京の軍事関係筋は「中国には西太平洋から米海軍の影響力を排除する総合目標があり、在日米軍は軽視できない存在だ。各種の圧力や威嚇行動により、日本側の反応とともに日米同盟の適用範囲や反応速度、信頼性などを探る必要がある」と語った。