直木賞作家の荻原浩さん、漫画家デビュー 40年越しの夢叶える





荻原浩著「人生がそんなにも美しいのなら」(集英社)
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 絵で物語が綴(つづ)れたら、いままでできなかったことが、できるんじゃないか-。直木賞作家、荻原浩さん(63)の新作はなんと「漫画」だ。初めての漫画単行本の題名は「人生がそんなにも美しいのなら 荻原浩漫画作品集」(集英社)で、短編8作品を収録。若いころに抱いた“漫画家デビュー”の夢を、40年の時を超え結実させた。

■やり残したこと

 平成17年、代表作「明日の記憶」で山本周五郎賞を受賞し、映画も大ヒット。「海の見える理髪店」で直木賞にも輝いた。作家として順風満帆のキャリアだ。だが、還暦という節目が間近に迫った59歳のとき、「やり残したことは本当にないのか」と考えたという。

 「小説を本気で書き始めたのは39歳。当時は40歳という大台に対する焦りがありました。たぶん、年齢の大台が迫ると20年周期で焦る体質なんだと思います」

 そんな時に思い出したのが漫画だった。小さいころから絵を描くのが得意。学生の頃には漫画家を志した時期もあった。当時はペンをうまく扱えず挫折したが、漫画への思いを熾火(おきび)のごとく心中に温め続けた。

 5年ほど前、小説誌の特集企画で、小説ではなく漫画の寄稿を提案。4コマ漫画を描いた。ただし、「実力不足は明白でした」。デジタル漫画教室に通ったものの、パソコンの作業についていけず断念。結局、手間と時間をかけ、全てアナログ作業の「手描き」で仕上げた。「プロの漫画家のすごさを身に染みて感じた」と振り返る。

 それがきっかけで「小説すばる」からオファーが来て、年2本程度のペースで漫画作品を掲載。ベタ塗りを手伝ってもらうなど家族にも支えられた。「最初に小説を書き始めたころの手探り感と、自分がどこまでできるかわからない不安と期待。この漫画で改めて経験できた気がします」

■絵に独特の味わい

 もちろん“短編の名手”の作品集だから、ストーリーは文句なく面白い。それを差し引いても、絵に独特の味わいがあり、物語に引き込まれてしまう。収録8作品は、人生のほろ苦さやいとおしさを描いた物語から、日常の半歩先に広がる奇妙な世界まで多種多様。絵柄も少しずつ異なる。

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