新型コロナウイルスの感染拡大を背景にして世界を揺るがした原油価格の乱高下が太陽光や風力発電といった再生可能エネルギー(新エネ)の普及に拍車をかけそうだ。化石燃料の価格競争力が増す原油安局面では、再生可能エネへの投資が鈍るともみられてきたが、電力会社などにとって燃料価格の激変は大きなリスク。かえって発電方法の多様化の重要性が再認識されている。電力会社や石油元売りなど発電事業を手掛ける各社は原油安の中でも、再生可能エネへの投資を継続する方針だ。
「価格が乱高下する原油相場に左右される投資は事業継続上のリスクがある」
東京電力ホールディングス(HD)の小早川智明社長は歴史的な原油価格の下落を目にしても、過剰な原油依存への危機感をあらわにする。
日本の原油輸入価格の指標とされる中東産ドバイ原油のスポット価格は今年4月に1バレル=13ドル台まで下落。6月に入ってからは40ドル前後で推移しているが、平成30年10月に80ドル台をつけた水準を考えれば依然として安値圏だ。こうした原油安は石油による火力発電のコストを下げ、再生可能エネの逆風になるとの見方もある。
ただ、電力会社が原油安を理由に火力発電にシフトしても、原油価格が急騰した場合に収益力が落ちてしまう可能性が高い。今回の価格乱高下はこうしたリスクの大きさも示した形だ。小早川氏は「多様化してバランスよく対応するのが重要」と指摘し、再生可能エネ、原子力などの事業を継続するとしている。
また今年1月に地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の本格的な運用が始まる中、各社は二酸化炭素(CO2)排出量抑制を重視する国際的な流れは変わらないとみている。
東京ガスは5月、洋上風力発電向けの技術を手がける米国の新興企業、プリンシプル・パワーに20億円超を出資し、主要株主になったと発表。担当者は狙いについて「脱二酸化炭素に向けた投資を継続していくため」とする。
JXTGHDの杉森務社長も「低炭素、循環型社会が走り出している。原油価格にかかわらず再エネを進める」と強調。洋上風力発電事業を強化しているコスモエネルギーHDの植松孝之常務執行役員も「(石油依存からの)変革を早めないといけない可能性がある」と話す。
国内では東京電力福島第1原子力発電所事故後、太陽光発電の設置が政策的に進められたことなどから、発電量全体に占める再生可能エネによる発電の割合は30年度に8・1%となり、22年度より7ポイント上昇した。こうした動きは今後もさらに強まりそうだ。(飯田耕司)