【漫画漫遊】「僕の心のヤバイやつ」桜井のりお著 秋田書店

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(c)桜井のりお(秋田書店)2018

(c)桜井のりお(秋田書店)2018

■目に映る全てが事件だ

 先日、14世紀イタリアの物語集「デカメロン」を読み、「身分違いの恋」の多さに感慨を覚えた。社会構造は違えど、今も昔も人の悩みや創作のテーマはそう変わらない。現代も多くの生徒が目に見えない教室内の身分制度「スクールカースト」に悩まされている。「デカメロン」から連想した本作は、そのカースト上位の女子と下位の男子の交流を描いた物語。2人の不器用で真っすぐ、時に不純なやり取りを味わっていると、自身の中学生の頃の思い出が不意に鮮やかに蘇(よみがえ)ってくる。

 主人公は中学2年生の市川京太郎。クラスメートである学校一の美人、山田杏奈が気になっており、「僕が今最も殺したい女」と妄想している。読者は最初、「ヤバイやつだ…」と思うだろう。しかしそのモヤモヤした衝動は殺意ではなく、恋心だったことに気づく市川。見た目は完璧なのに隙だらけで、「陰キャ」(根暗なタイプ)の自分にも優しく接してくれる山田に心ひかれていく。

 読者も読み進めるうち、市川への印象が少しずつ変わるだろう。普段は冷静なのに山田のためなら一生懸命頑張ったり、家では姉から猫かわいがりされていたり…。そう、実は市川もかわいいのだ-。

 もちろん、ただかわいいだけのラブコメではない。キャラクターの表情の機微や変化が実に素晴らしい。最初は市川をシラっとした目で見ていた山田だったが、次第に2人の距離感が縮まり、恋する女の子の表情に変化する描写が秀逸。初期と最新話では別の作品にさえ思えるほどだ。

 気になる点もある。意味深長な描写が多いのだ。コマの片隅や何げないセリフにも伏線らしきものが張り巡らされ、果ては文字の字体の違いにまで何らかの意図を勘ぐってしまう。ラブコメのはずなのにミステリーでも読んでいる気分になる。市川目線で物語が展開するため、「全ては市川の独りよがりでは…」と不安にかられたりもする。

 読むと中学生のときの感情が蘇るので、大人が読んでも大丈夫。LINEの交換、席替えのドキドキ感、放課後の何げない会話…。目に映る全てが“事件”であり、ドラマチックなのだ。今最も続きが気になる漫画である。既刊3巻。(本間英士)

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