今月中旬、香港の教育現場に衝撃が走った。
九竜(クーロン)地区の公立中学(日本の中学・高校に相当)で、女性教師が9月から始まる新年度の契約を打ち切られたことが分かった。理由は、音楽のテストで反政府デモのテーマソング「香港に栄光あれ」を生徒が演奏するのを止めなかった、というものだった。
「周りの教師たちは驚き、恐れおののいている。誰もクビになりたくないから、今後は授業で敏感な話ができなくなる。教育の自由が損なわれてしまう」
別の中学のベテラン教師、林俊仁氏(仮名)=(46)=は顔を曇らせて自嘲気味にいう。
「このままでは、美術の時間に黄色(反政府デモのシンボルカラー)が使えなくなるかもしれないな」
当局による学校への締め付けがこれまでになく強まっている。昨年から続く反政府デモでは小中学の生徒約1600人、教職員約100人が逮捕された。中国側が危機感を募らせているのは間違いない。中国で審議中の香港国家安全維持法案にも、わざわざ「学校の監督・管理強化」が盛り込まれているほどだ。
ある中学校で卒業写真を撮影したときのこと。日本の高校3年に当たる生徒たちが、5本の指と1本の指を掲げて写真に納まった。これは反政府デモのスローガンである「政府への5大要求は一つも欠くことができない」を示すポーズだ。
香港紙によると、これに驚いた学校側が業者に写真の加工を要求。結局、5本の指を4本に減らしたり、1本の指を2本に増やしたりする改変が行われた。