香港安全法成立、日本の企業活動の足かせに 米中対立で金融市場動揺も





その他の写真を見る(1/2枚)

 30日に成立した香港国家安全維持法は高度な自治を保障した「一国二制度」が形骸化することで、投資マネーや金融専門人材の流出につながる可能性がある。日本経済にただちに直接的な影響を及ぼす可能性は少ないともみられているが、独立した司法制度も揺らぎ、経営環境の変化が企業活動の足かせになりかねない。また、同法の導入を強行した中国と米国が制裁措置を応酬し、新型コロナウイルスの影響で不安定化している世界の金融市場をさらに動揺させる懸念も強まる。

 東京商工リサーチが昨年10月にまとめた調査結果によると、香港に進出する日本企業は1688社で、2288カ所の拠点を展開。このうち半数以上が卸売業で、製造業は少ない。物流や旅行会社の現地拠点も102カ所あり、幅広い業種の企業が活動している。

 「国際金融センター」である香港には日本の大手銀行も進出している。邦銀の主要な顧客は日系企業で同法の対象となる行為はしないとみられ、中国企業との取引については「上海など中国本土で行っている」(関係者)ため、関係者の間では影響は限定的との見方もある。中国や香港のビジネスに詳しい日系企業関係者は「日本や欧米の企業には今のところ、香港から撤退するという動きはない」と話す。

 ただ、中国本土と比べて自由度が大きい経済活動が保障されていた香港の経営環境が変わることへの懸念は大きい。

 第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは、「企業活動の足かせになりかねない。また、新型コロナが収束しても、観光業が以前のようにはいかなくなるかもしれない」と指摘する。英国統治時代から続く独立した司法制度が維持されない可能性があることも不安材料だ。

 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は「世界経済で香港自体が担っている役割はさほど大きくないが、米中の貿易戦争がさらに厳しくなり、報復合戦になる可能性がある」と懸念を示す。

 トランプ米政権はすでに香港に与えている関税などでの優遇措置の解除に動いており、中国企業が米当局の検査を拒めば米国での上場を廃止できる法律も上院で可決した。日系企業関係者は「中国のIT系企業は米国市場から締め出される方向にある」と指摘する。貿易摩擦で起きたような米中による対抗措置の連鎖につながりかねない状況だ。

 先進7カ国(G7)外相は6月、共同声明で中国政府に「重大な懸念」を表明。大和総研の斎藤尚登主席研究員は「新型コロナで国際協調の必要性が増す中で、“遠心力”が働く契機になり得る」と強調する。



Source link