新型コロナウイルス禍で経済社会の構造が大きく揺らいでいる。そんな時代の転換点に対処するため、政府は新たな経済財政運営指針となる「骨太方針」原案の柱にデジタル化推進を掲げた。
コロナ禍ではっきりしたのは、日本のデジタル化が海外より遅れていることだ。骨太方針が、このままでは世界から取り残されるとの「切迫した危機意識」を共有すべきだとした指摘は正しい。
今後1年間をデジタル化の集中改革期間とすることやテレワークの定着、教育・医療のオンライン化などが入った。危機を克服できる社会を構築するため、着実な実行が必要なことはもちろんだ。
ただし、政府がこれまでも、さんざんデジタル化の推進を掲げてきたことを忘れてはならない。成果が不十分なため、変革を急がなくてはならないのである。
政府が「一丁目一番地」の最優先課題とする行政のデジタル対応もそうだ。これまできちんと対処できなかったため、コロナ対策の給付金支給などで混乱を招いたことを猛省すべきである。看板倒れを繰り返してはならない。
今年のもう一つの特徴は、文書を昨年の半分程度とし、もっぱら感染拡大の備えと「新たな日常」への対応に絞ったことだ。従来は各省庁が予算確保をもくろむ施策を総花的に並べがちで、真になすべき改革を示す本来の骨太らしさは希薄になっていた。
解せないのは、今年記載がなくても、昨年あったものは「引き続き着実に実施する」と、わざわざ断りを入れたことだ。これでは実質的に従来方針の踏襲である。コロナ禍の今は既存政策を見直して再構築すべき機会なのに、これを逃しかねないことを懸念する。
原案には防災・減災などの記述に昨年の方針を書き写したとみられる部分などがあり、与党が反発した。政府は原案を修正した上で近く閣議決定を目指すが、政策の重点化を図る取り組みは今後の予算編成でも問われよう。
今年の骨太方針は例年示している財政健全化目標に触れず、年末までに改革の工程を具体化すると明記した。2度の補正予算で巨額の国債を発行し、財政は極度に悪化した。今は一時的に財政再建を棚上げするほかないが、これをいつまでも放置することは許されない。収束後を見据え、実効性のある戦略を講じるべきだ。